音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2003年12月14日(日)

ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ「CRUSADE」(DERAM 820 537-2)

ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ、67年のアルバム。以前取り上げた「A HARD ROAD」に続く4枚目にあたる。

本盤の目玉は、「A HARD ROAD」一枚に参加しただけで脱退してしまったピーター・グリーンに代わって、弱冠19才のミック・テイラーがリード・ギターを弾いていることだな、なんといっても。

数年後にはローリング・ストーンズのメンバーとして迎えられることになるテイラーの、初々しく、だがなかなか完成度の高いプレイを聴ける。

こりゃあブレイカーズ・ファンならずとも、気になるでんしょ?

<筆者の私的ベスト4>

4位「OH, PRETTY WOMAN」

これはもちろん、ロイ・オービソン…じゃなくってアルバート・キングでおなじみのナンバー。

キングの名盤、「BORN UNDER A BAD SIGN」ほかに収められている。

彼らは当然そのヴァージョンを元にプレイしているのだが、テイラーは実に見事にアルバート節を再現している。

レス・ポール(推定)で泣きのチョーキングを多用したプレイは、とても十代の若造とは思えないシブさ。

ま、早熟の天才ということでは、前任のクラプトン、グリーンもそうだったけどね。

そういったとてつもない才能のある若者を何人も見出した、メイオールの慧眼には恐れ入るばかりである。

当時のテイラーのプレイ・スタイルは、前任者のどちらかといえばクラプトンの方に近い。音色もフレーズも、知らずに聴けばクラプトンかと間違えそうなくらい似ている。

おそらく、ミック少年も数年間、クラプトンのコピーを必死にやっていたのだろう。それだけ、当時の英国のロック少年たちにとって、クラプトンは神のような存在だったということがわかるね。

3位「SNOWY WOOD」

これはインスト・ナンバー。メイオール、テイラーの共作。

「WITH ERIC CLAPTON」「A HARD ROAD」と、アルバムに必ず最低一曲はインスト物を入れるのが、バンドのならわしになっていたが、本盤でも二曲が収録されている。この「SNOWY WOOD」と「DRIVING SIDEWAY」である。

後者は「HIDE AWAY」や「THE STUMBLE」同様、彼らのフェイバリット、フレディ・キングのナンバー。のっけからフレキンばりのバリバリのソロを、テイラーは聴かせてくれるのだが、筆者はあえてオリジナル曲のほうを選んでみた。

「SNOWY WOOD」はキャッチーなテーマが実にイカしている、エイトビートのナンバー。オルガンをメイオールが弾いていたりして、どことなくMG'Sっぽい。ジョン・マクヴィのベース、キーフ・ハートリーのドラムスも実にノリがいい。

テーマ演奏に引き続いて、テイラーがソロを弾きまくる。これが何とも堂々たるプレイで、とても駆け出しの少年が弾いているとは思えん。

リズム感の確かさといい、フレーズのため方、メリハリのつけ方、もうどこのバンドでもプロとして通用するレベルにある。

だからこそ、老練なメイオールも迷うことなく大抜擢したんだろうな。

2位「THE DEATH OF J.B. LENOIR」

同年4月、37才の若さでこの世を去ったアメリカのブルースマン、J・B・ルノアーへの追悼歌。

ルノアーは、メイオールと個人的な親交もあったひとで、メイオールの切々とした歌いぶりに、その死を悼む気持ちがよく表われている。

ドスを効かせた低めの声で歌うタイプのブルースマンが多い中、ルノアーはハイ・トーンのヴォーカルを得意としていた。いわば異色のブルースマン。

メイオールも声が高く、似たタイプのシンガーなので、シンパシーは非常に強かったのだろうな。

ここでメイオールはピアノを弾く一方、ハープも吹いている。テイラーはバックに廻り、リップ・カントのバリトン・サックス・ソロがフィーチャーされる。

しみじみとした哀感が漂う佳曲。一度は、聴いてほしい。

1位「I CAN'T QUIT YOU BABY」

ブルース・ファンなら知らぬ者もない、オーティス・ラッシュの名曲。

ご本家ラッシュ以外では、ZEPのカヴァーがもっとも知られているが、ZEPのファーストに先立つこと一年半も前に、このブルースブレイカーズもレコーディングしておったのだよ。

メイオールの、おなじみのうわずり気味の高い声も、この曲にはけっこうマッチしている。ブラスをフィーチャーしたバック・サウンドも、正調ブルースという感じで実にカッコいい。

でも、それだけでは終わらない。フィードバックを効かせ、ナチュラル・ディストーションばりばり、エッジの立った音色のギターが絡む。これがなんとも挑発的。

ブルースという形式は遵守しているように見せかけて、掟破りの技をかけてくる。やるねえ。

まさにブルースを破壊(かつ創造)するブルース。これぞ、彼らの真骨頂だと思う。

当然ながらZEPも、このヴァージョンに大いにインスパイアされたこと、間違いあるまい。その成果がZEPファーストの、あの衝撃的なサウンドだと思う。

その後、テイラーは数枚のアルバムに参加し、ストーンズへと旅立って行くが、才能ゆたかな彼がバンドの音楽性をより充実させたのは間違いないだろう。それは、第二期ストーンズが音楽的にピークを迎えたことから見ても、納得いただけるのではないのかな。

寡黙だが、ギターを持たせれば誰よりも雄弁なプレイを聴かせる男、ミック・テイラーの原点を知ることの出来る一枚。

彼自身のオリジナリティを、十分に表現出来るまでには至っていないものの、19才でこれだけ弾けるヤツはそうおらんぞ。アンファン・テリブルとは、彼のことだな。必聴!

<独断評価>★★★★

2003年12月21日(日)

山下達郎「シーズンズ・グリーティングス」(MOON AMCM-4180)

circustown.netによるディスク・データ

クリスマスも近いので、今回は「季節モノ」。山下達郎のクリスマス・アルバムである。93年リリース。

彼が83年にリリースしたシングル、「クリスマス・イブ」がいまだに売れ続けており、わが国における「ホワイト・クリスマス」並みのスタンダード・ナンバーになりつつある。

その英語詞版「CHRISTMAS EVE」、そしてア・カペラの「ホワイト・クリスマス」を中心に構成された、クリスマス・ソングの集大成盤がこれである。

多重録音によるア・カペラあり、オーケストラ&コーラスのゴージャスなバッキングによるものあり。いずれにせよ"凝り性"な彼の真骨頂がタンノウできます。

<筆者の私的ベスト4>

4位「SMOKE GETS IN YOUR EYES」

実はこれはクリスマスとは関係ないナンバーだが、出来がいいのでピックアップ。いうまでもなく、プラターズのビッグ・ヒット、「煙が目にしみる」である。

元々はジャズ作曲家、ジェローム・カーンが1933年に作った古〜い曲。これを戦後プラターズがR&Bとして蘇らせ、さらに達郎が新しい衣を着せて歌い継いでいるのだ。70年の年月を越えて生き続ける、究極のスタンダード・ナンバー。

優雅なストリングス、ホーンの演奏に乗せて、いかにも心地よさげに、高らかに歌う達郎。

プラターズの絶唱にもひけをとらない、快唱であります。

3位「HAPPY HOLIDAY」

多重録音による、ドゥ・ワップ・コーラスが印象的なナンバー。58年、シェルズなる黒人コーラス・グループによるヒット、といっても日本ではほとんど知られていないが。

達郎はおなじみの「ON THE STREET CORNER」シリーズで、この手のコーラスにたびたびトライしているが、これもその延長線上のサウンド。

いかにも生きがよく、キャッチーなハーモニーに、心底ハッピーな気分になってしまう。

こういう「勢い」のある曲のほうが、シナを作って甘〜く歌うタイプの曲よりも出来がいいと思ってしまうのは、筆者だけ?

2位「CHRISTMAS EVE」

これは「MELODIES」のオリジナルのバック・トラックを使い、アメリカのシンガー・ソングライター、アラン・オデイによる英語詞で歌うヴァージョン。オデイは「YOUR EYES」「BIG WAVE」なども作詞しており、達郎と係わりが深い。

原曲のイメージにほぼ近いドラマが展開される歌詞に、思わず落涙してしまうリスナーも少なからずいるだろう。かくいう筆者もそのクチ!?

クリスマスといえば楽しく、ハッピーな日、こういう一般的なイメージの逆をついて、大失恋、大悲劇の日にもしてしまった達郎。

日本では、クリスマスにデートできるひと、できないひとと、はっきり色分けされてしまう文化が、このヒット以来できてしまったような印象がある。(特にバブル期以降。)

なんだかな〜。彼の曲も、功罪半ばという気がするね(笑)。大体、日本人はクリスマスという神聖な祭典を、何だと思ってんだ!

それはさておき(笑)、そういう悲しい、後ろ向きの内容の歌なれど、やっぱりいい曲だと思う。

アーティストは誰でも、「会心の一作」をものするために、ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返すものだろうが、これは「神が降りてきた」、そういう一曲だと思う。今後も、多くのひとびとに愛され続けていくことは、間違いないだろう。

1位「WHITE CHRISTMAS」

1位はやはり、これしかあるまい。数々のスタンダード曲をものした大作曲家、アーヴィング・バーリン、42年の作品。

第二次大戦中に書かれたこの一曲が、稀代のクルーナー、ビング・クロスビーという歌い手を得たことで、世界一売れたシングルとなったのである。

60年以上、米国内のみならず、世界中で歌いつがれているのだから、達郎の20年というロング・ヒットもまだまだスケールが小さい、小さいってことやね。

ヤマタツさんもまだ50そこそこだろうから、これからも30年、40年、よぼよぼのジイサンになるまで、「クリスマス・イブ」を歌い続けていって欲しいもんだ。「日本一のロング・ヒット」ぐらいには、認定されるかもね。

余談はともかく、このア・カペラ版「ホワイト・クリスマス」、その多重録音に対する凝りかたはハンパではない。

何十回も執拗にコーラスを重ねていくことで、この曲にクロスビー版とはまったく違った、聖歌のような厳かさを与えることに成功している。

音の求道者・山下達郎の、まさに面目躍如なトラックである。必聴。

他にもクリスマスがらみの、有名曲、シブめの曲、各種満載であります。ハッピーなクリスマスをお迎えのかたも、残念ながらそうでないかたも、BGMにぜひどうぞ。

<独断評価>★★★☆

2003年12月30日(火)

ブルース・ブラザーズ・バンド「ライヴ・イン・モントルー」(WEA MUSIC/WMC5-104)

ブルース・ブラザーズ・バンドのライヴ盤。89年6月、スイスのモントルー・カジノにて収録。

このCDは何回か再発売になっているようで、最新版は昨年リリースされているが、オリジナル・イッシューは90年であります。

<筆者の私的ベスト4>

4位「THE THRILL IS GONE」

当公開セッションでもおなじみの、B・B・キングのナンバー。アップテンポの曲が多いブルブラ・バンドとしては非常に珍しく、まったりとしたテンポでディープなサウンドを聴かせてくれる。

ここでの聴きものは新メンバー、ラリー・サーストンの、ワンフレーズ、ワンフレーズをかみしめるような歌いぶりもさることながら、なんといってもマット”ギター”マーフィのソロだろう。

現在は病床にあると伝えられる彼の、クリアでソリッドな音には、思わず聴き入ってしまう。

BBのかなりウェットなプレイとはまたひと味違った、乾いた泣きのギターと申しましょうか。

マイナー調で感傷過多になりがちなこの曲を、絶妙なバランスでまとめ上げた手腕には、脱帽であります。

3位「IN THE MIDNIGHT HOUR」

これはウィルスン・ピケット、代表的ヒット(65)というだけでなく、60年代ソウルを象徴する名曲のひとつといえよう。

ブルース・ブラザーズ・バンドは、もちろん映画「ブルース・ブラザーズ」(80)でおなじみの、ブルブラのバックバンドが79年に再結成されたもの。もちろん、一部メンバーの入れ替わりはあるが、ギターのスティーヴ・クロッパー、マット・マーフィー、ベースのドナルド・ダック・ダンといった中心メンバーはそのままである。

で、この曲はそのクロッパーとピケットほかの共作。

当然、クロッパーのあのシャキシャキした、テレキャスターでのプレイが聴ける。

オリジナル・ブルブラ以来の付き合いのホーン・セクション、トム・マローン、ルー・マリー二、アラン・ルービンの一糸乱れぬアンサンブルもグー。

日本ではほとんど無名の若手シンガー、サーストンも、張り切ってイキのいい歌声を聴かせてくれる。

ベルーシやエイクロイドがいないのはちと淋しいが、音楽的には彼らの抜けた穴を十分カヴァーしているといえそう。

2位「KNOCK ON WOOD」

とはいえ、サーストンひとりでは、いまひとつ迫力不足なのは否めない。

そこで、強力な切り札として、超ベテラン・シンガーがゲストで登場。エディ・フロイドである。

彼もまた、ピケット同様、60年代のソウル・ミュージックの代表選手。これは彼の最大級のヒット、十八番というわけだ。

サーストンもなかなかいいシンガーではあるが、いかんせんまだ若くて、威勢がいいだけという印象もある。フロイドが歌い始めると、客席のウケが違う。やっぱり真打ち登場!って感じだ。

66年以来、23年にわたって歌い続けてきただけに、その歌声の深み、熟成ぶりはさすがのもの。「貫禄」の一語です。

フロイドは自作曲としてこの「KNOCK ON WOOD」のほか、同じくヒットした「RAISE YOUR HAND」も披露している。

彼の歌って、決してリキまず、さらりと歌い流しているようで、あとでジワジワと効いてくる。まるで、チャンピオン・ボクサーのボディ・ブローのようだ。

1位「EVERYBODEY NEEDS SOMEBODY TO LOVE」

邦題「恋人天国」で、わが国でもおなじみのソウル・ナンバー。オリジナルはソロモン・バーグ、その後ピケットもカヴァーでヒットを放っている。

このアップテンポのナンバーを、フロイドとサーストンのふたりが、サム&デイヴよろしくシャウト。これがド迫力で、実にカッコいい。

ふたりのアジテーションにヨーロッパのオーディエンスも手拍子で応え、ノリも最高潮。

やっぱ、ソウルはこうでなくっちゃ、という見本のようなライヴ。

ゴキゲンな歌声に、ゴキゲンな演奏。これさえありゃ、他には何もいらない。寒〜い冬を吹っ飛ばすには、格好のホットな一枚でっせ!

<独断評価>★★★


「音盤日誌『一日一枚』」2003年11月分を読む

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