音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2003年6月3日(火)

#166 V.A.「GUITAR WORKSHOP SERIES/TRIBUTE TO OTIS REDDING」(ビクター音楽産業 VDR-1659)

今日はちょっと体調が悪いので(といっても、昨日飲み過ぎただけなのだが)、短めだが許しとくれ。

人気企画「ギター・ワークショップ・シリーズ」のひとつ。89年リリース(AMGはデータ誤り)。

日本のビクターのスタッフが、アメリカのミュージシャン達とともに制作したアルバム。

なんといっても、参加アーティストの顔ぶれに圧倒される。

プロデューサー、アレンジャーを兼ねたデイヴィッド・T・ウォーカー、ブッカー・T・ジョーンズを軸に、スティーヴ・ルカサー、ジェイ・グレイドン、スティーヴ・クロッパー、フィル・アップチャーチ、エイブ・ラボリエル、ジェフ・ポーカロといった巧者が集って、稀代のソウル・マン、オーティス・レディングをカヴァーしているのだから、いやが上にも期待は高まるね。

<筆者の私的ベスト3>

3位「THESE ARMS OF MINE」

フュージョン・ファンにもおなじみの、黒人ギタリスト、フィル・アップチャーチをフィーチャーした、オーティスの自作バラード。

彼のプレイは、共演するウォーカー(全曲で登場している)との相性がわりといいように思う。

ともに、オーソドックスなブルース・プレイを得意とするだけに、「親和度」が高いのだ。

最初はアップチャーチから弾き始め、ウォーカーが引継ぎ、ジョーンズのオルガン・ソロ、ジェリー・ピーターズのピアノ・ソロをはさんで、最後はふたりのインタープレイという構成。

プレイ・スタイルの違いがほとんどないので、仲のいい友人同士の会話のように、和気あいあいとしたムードでプレイが進む。

理想のギター・デュオとは、まさにこういうのをいうのだろうね。

2位「I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG」

オーティス自身のステージでもハイライト的な曲だったこのバラードを演奏するのは、ウォーカーとグレイドン。

ウォーカーから弾き始め、グレイドンへソロを渡す。後半ではふたりの掛け合いもある。

このふたりが実に対照的。ウォーカーはギブソンのフルアコでひたすらブルーズィな演奏、グレイドンはテレキャス・タイプなれどハムバッカー&トレモロアーム搭載のモデルでロックなプレイ。

ワタシ的には、ウォーカーのほうが曲調に合っている気がするので、彼に軍配を上げてしまうが、グレイドンのディストーションの効いたエモーショナルな音も、実は捨てがたい。

ちょっと木に竹を接いだという感じもしないではないが、ドラマティックな盛り上げ方は、さすがトップ・プレイヤーだ。

1位「(SITTIN' ON) THE DOCK OF THE BAY」

オーティスといえば、この曲抜きで語るわけにはいくまい。彼の死のまぎわに録音された遺作にして、代表的ヒット。

オーティスとともにこの曲を作ったクロッパー自らがギター・ソロを弾いているのだから、出来が悪いわけが無い。

おなじみのサンバースト・テレキャスター(ローズウッド・ネック)を操り、純正サザン・ソウルな音を聴かせてくれる。

バックも、盟友ジョーンズのオルガンはいうまでもなく、ジェリー・ピーターズのピアノもいい味を出しているし、リズム隊(ジョン・ロビンスン、スコット・エドワーズ)もビッグ・ネームではないが手堅いプレイだ。

「THESE ARMS OF MINE」についてもいえるが、派手な要素はまるでないし、どこか「いなたい」が、まことに心なごむ音。そういう感じだ。

この一枚、全体にロック系より、ブルース、ソウル系のギタリストのプレイのほうに見るべきものがあると思うのだが、それはやはり、彼らのほうがオーティスの「音」の本質、すなわち「うたごころ」をよく知っているからだろう。

各自が好きにやってるふうで、統一感にはいささ欠ける内容だが、個々のギタリストのプレイはなかなか楽しめます。機会あれば、試聴してみては。

<独断評価>★★★

2003年6月6日(金)

#167 エアロスミス「GET YOUR WINGS」(COLUMBIA CK 32847)

エアロスミスのセカンド・アルバム。74年リリース。邦題「飛べ!エアロスミス」。

前年、アルバム「AEROSMITH」でデビューした彼らだが、二枚目のアルバムを発表する頃までは、日本ではまださほどの人気でなかったと思う。

人気が急上昇してくるのは、翌年アルバム「TOYS IN THE ATTIC」を出し、「SWEET EMOTION(やりたい気持ち)」、そしてラップをロックに導入したナンバー、「WALK THIS WAY」を連続ヒットさせたあたりからだろう。

その後は、皆さんご存じのように、キッス、クイーンとともに「ロック御三家」とまで呼ばれる超人気グループになるわけだが、ブレイク以前の彼らにも、なかなかいい曲がある。

<筆者の私的ベスト3>

3位「TRAIN KEPT A ROLLIN'」

タイニー・ブラッドショー(ほか)の作品だが、もちろんエアロはヤードバーズのヴァージョンでこの曲を知った世代。

それが証拠に、前半(スタジオ録音)はやや遅めのテンポながら、後半、ライヴで演奏するアップテンポのアレンジは、まさにヤーディーズ版をまんま戴いたもの。

アメリカのバンドでありながら、彼らが自国よりも英国のロックの強い影響を受けたことがよくわかりますな。

曲によっては、クイーンにもかなり近い音を出している。どちらがどちらを真似したってことではないでしょうが。

で、この曲でのジョー・ペリーのギターが(別に難しいことをやっているわけではないが)、音の伸びが実によくてカッコいいのひとこと。

これぞロック・ギター!という感じの演奏であります。また、ジョーイ・クレイマーのパワフルなドラミングもいうことなし。

しかし、邦題の「ブギウギ列車夜行便」、これはないよな(笑)。

2位「SAME OLD SONG AND DANCE」

これも邦題がスゴいぞ。なんてったって「エアロスミス離陸のテーマ」だもんな(笑)。

なんとか日本にファンを増やそうという、当時のレコード会社の宣伝マンの力作なんだろうが、どうもご苦労さまという感じ。

グループ名や、アルバム・タイトルに引っかけたまでで、歌の中身は「離陸」とはほとんど関係ありません(笑)。

タイラー=ペリー・コンビの作品。ミディアム・テンポのオーソドックスなロック・チューン。

キャッチーなギター・リフがいかにもエアロらしい。

おっと思わせるのは、バックにホーン・セクションを配し、サックス・ソロをフィーチャーしていること。

このホーンになんと、ブレッカー・ブラザーズまでが参加しとります。どうりで、イカした音だわ。

このへんに、ブリティッシュ・ロックの影響大ながらも、それに完全に同化しない、アメリカのバンドらしい個性を感じるね。

4人の演奏、タイラーの歌いぶり、ともに手堅いものがある。二枚目にして、なかなかの完成度だ。

1位「S.O.S.(TOO BAD)」

「S.O.S.」といったって、アバではない。もちろん、ピンク・レディーでもない(たとえが古すぎるか)。

なぜか邦題は「エアロスミスS.O.S」。そこまで冠を付けなくても、ええんちゃうの(笑)。

あまりにおかしいので、他のナンバーも邦題を書いちゃいますが、「SPACED」→「四次元飛行船」、「WOMAN OF THE WORLD」→「黒いコートを着た女」、「SEASON OF THE WITHER」→「折れた翼」てな具合。直訳なのは「PANDRA'S BOX」→「パンドラの箱」くらいのもんか。

でもまあ、これが約30年前の洋楽レーベルの宣伝マンの、平均的センスなので、大目に見てあげてや。

で、閑話休題。この曲はタイラーの作品。ミディアム・ファスト・テンポで、カッチリとまとまった一曲。

耳に残るシンプルなリフの繰り返し、どこか哀愁を漂わせるマイナー系のメロディ・ライン。

すでにして「エアロ節」、「タイラー節」とでもいうべき個性が確立されている。

凡百のハード・ロック・バンドにはない「サムシング」が、この曲を聴くと感じられるってこと。

まさに、「栴檀は双葉より芳し」ですな。

最後に付け加えておくと、本作よりジャック・ダグラスがプロデュースにあたっている。

明らかにデビュー・アルバムよりは、音に「しまり」が出て、曲調にも幅が出来、バンドとしてよりプロフェッショナルな相貌を見せてきているのが、この「GET YOUR WINGS」。

その「変化」は、バンド・メンバー自身の成長によるものだけでなく、ダグラスの手腕によるところも大きいと思うが、いかがであろうか。

まさに「上昇気流」にのった、イキのいい彼らを再発見して欲しい。

<独断評価>★★★☆

2003年6月9日(月)

#168 サム&デイヴ「THE BEST OF SAM & DAVE」(ATLANTIC 7 81279-2)

「ダブル・ダイナマイト」の異名をとった男性ソウル・デュオ、サム&デイヴのベスト盤。69年リリース。

サム・ムーア(高音パート)とデイヴ・プラター(低音パート、正しい発音はプレイター、かな?)、このコンビはそれぞれがソロ・シンガーとしても十分やっていけるだけの高い実力をもっており、ハーモニーももちろん素晴らしいが、とりわけ「掛け合い」の迫力は天下一品であった。

そんな彼らのベスト3は、あまりに当たり前の曲しか選べそうにないので(「ソウル・マン」「ホールド・オン」「アイ・サンキュー」といったところ)、ここは「裏ベスト3」を選んでみよう。

<筆者の私的"裏"ベスト3>

3位「WHEN SOMETHING IS WRONG WITH MY BABY」

彼らのプロデュースを担当していたアイザック・ヘイズとデイヴィッド・ポーターの作品。スローテンポのラヴ・バラード。

僕のベイビーに何かあるときには、それは僕の身にも何かが起きるということ。男と女、一心同体の愛を切々と歌い上げたナンバーだ。

筆者はこの曲をホール&オーツの、アポロ・シアターでのライヴ盤ヴァージョンで初めて聴いたという記憶がある。

オーツのリードで始まり、ホールが歌い継ぐ。ふたりのハーモニーが最高に決まっていた。

で、ご本家版だが、これはホール&オーツをさらにしのぐディープな出来ばえだ。

こちらもデイヴが歌い始め、サムがその後を引き継ぐ。これがなんとも、極上のソウル。これ以上、心にしみいる歌はそうない。

歌うたいとなったからには、一度、こんなバラードを決めてみたい。そんな名曲中の名曲である。

2位「PLACE NOBODY CAN FIND」

ミディアム・テンポのソウル・ナンバー。ポーターの作品。

サムとデイヴの掛け合い、そして切れのいいハーモニーがバッチリ決まった一品だ。

ロック感覚も十分に感じられる曲で、そのビートやリフが、後代のアーティストの作品、たとえばバッド・カンパニーの「CAN'T GET ENOUGH」あたりに大いに影響を与えたふしがありますな。

実際、彼らの蒔いた種は、その後70年代、80年代、90年代と、スリー・ドッグ・ナイト、ブルース・ブラザーズをはじめとするさまざまアーティストに引き継がれて花を咲かせていく。その影響力たるや、ハンパではない。

それから、この曲に限ったことではないが、バックのMG'S、メンフィス・ホーンの演奏が、実にごキゲン。

スティーヴ・クロッパーの弾く、テレキャスターのリフが、シンプルながら実にカッコいい。これぞ、サザン・ソウル也。

1位「SOOTHE ME」

彼らにももちろん、多大な影響を与えたソウルの先達、サム・クックの作品。

64年に33歳の若さで亡くなったクックをトリビュートして彼らが歌うのは、アルバム「TWISTIN' THE NIGHT AWAY」にも収められていたヒット・ナンバーだ。

クックのヴァージョンも以前「ザ・マン・アンド・ヒズ・ミュージック」というベスト盤で聴いたことがあるが(2001.1.8の項)、例の陽性にして、ソウルフルそのものの「クック節」が全開であった。

サム&デイヴ版は、それにまさるとも劣らぬ仕上がり。さすがの実力だ。

サムの、例の頭のてっぺんから抜けるような高音ヴォーカルを前面に押し出して、ひたすら楽しく、ウキウキするようなサウンドを聴かせてくれる。

ディープでブルーな歌よし、とことんネアカなナンバーよし。やっぱり、サム&デイヴは最強だ。

最高にアッパーなソウル・コーラス、堪能しておくれやす。

<独断評価>★★★★☆

2003年6月11日(水)

#169 ハウリン・ウルフ「HOWLIN' WOLF(THE ROCKIN' CHAIR ALBUM)」(MCA/Chess CHD-5908)

ハウリン・ウルフのチェスにおけるセカンド・アルバム(62年リリース)。といっても、当時のことだから、コンセプトにのっとって作られた「作品」というよりは、シングルの寄せ集めという性格が強い。

それでも、ウルフという空前絶後の強烈なキャラを前面に押し出すことで、見事、トータリティを感じさせるアルバムに仕上がっているのは、さすが。

<ロック・ファン必聴!のベスト3>

3位「SPOONFUL」

60年録音のシングルから。おなじみのチェスの顔役、ウィリー・ディクスンの作品。

ディクスンも得意のベースで参加、他にはヒューバート・サムリンのギター、オーティス・スパンのピアノ、フレッド・ビロウのドラムと、チェス・オールスターズの観あり。

クリームやテン・イヤーズ・アフター、キャンド・ヒートらによって取り上げられたことで、ロック・スタンダード化した曲だが、カヴァー・ヴァージョンのいずれも、ウルフの聴く者のハートを鷲掴みにするような歌を越えることは出来ていない。

どんなにバンド・サウンドをモダンなものに進化させたところで、ブルースの本質はやはり「ヴォーカル」。ご本家の120%エモーショナルな表現には、かなうべくもない。

楽器のテクうんぬんばかりを論じがちな、頭でっかちなロック・ファンたちにこそ、全身全霊でシャウトするウルフの歌を聴いてほしい。

2位「BACK DOOR MAN」

これまたディクスンの作品。もっとも、「BSR」51号でのサムリン・インタビューによると、ディクスンは自分で書いてないような曲も、ちゃっかりとプロデューサー権限で自分の曲としてクレジットしていたことが多かったようなので、すべて彼のペンによるものかどうかは不明。

「SPOONFUL」と同じメンバーで60年の録音。

この曲も、ドアーズ、チキン・シャック、UFOといったロック・バンドによってカヴァーされているが、あの天才ジム・モリスンですら、ウルフの持つスゴみを越えたとは思えない。

そのくらい、ここでの彼のパワーはすさまじい。

「背徳」「反社会的行為」をテーマにしながら、これだけ説得力ある歌を聴かせられるとは。背筋がゾクッとするくらい、素晴らしい。

1位「THE RED ROOSTER」

そして1位はやっぱりこれだ。同じくディクスンの作品。

61年の録音。サムリン、ディクスンに加えて、ジョニー・ジョーンズ(p)、サム・レイ(ds)がバックをつとめる。ウルフもギターを弾いている。

「LITTLE RED ROOSTER」のタイトルでストーンズにカヴァー(65年)されたことで有名となったナンバーだが、これを聴くに、ミック・ジャガーがウルフに、相当な影響を受けたことがよくわかる。

ストーンズは、マディ・ウォーターズやチャック・ベリーからの影響をよく指摘されるものの、意外にウルフの影響については余り言及されることがない。

しかし、明らかにウルフ譲りの、わめきちらすようなシャウト唱法も、ストーンズをストーンズたらしめる上で極めて不可欠な要素だと思う。

また、欲望のおもむくままに動くといったステージのスタイルも、彼らが巧みに取り入れた要素だろう。

なにより、ウルフとサムリンが、ギターとヴォーカルに分かれて「絡む」スタイルは、ストーンズがもっとも真似したところだろう。

で、この曲で一番カッコいいのは、ダルなサウンドにのせて弾かれる、スライド・ギターのプレイ。シビれます!

40年以上の時間を越えて、ストレートにハートに訴えてくるウルフの歌声、聴かずに今日のロックは語れない。

タフなシャウター、ハウリン・ウルフの魅力、ここにあり!

<独断評価>★★★★☆

2003年6月13日(金)

#170 ジョニー・ウィンター「THE WINTER SCENE」(PAIR PCD-2-1273)

ジョニー・ウィンター、CBSからメジャー・デビューする以前の、初期の録音を収録したコンピ盤。72年リリース。

これがなかなか面白い。「百万ドルのロックンロール・ギタリスト」と呼ばれる前の彼がどのような音楽をやっていたかが、よくわかるのだ。

ひとつの軸は軽めのロカビリー路線。もうひとつの軸はアコギによるブルース路線。

CBS時代のようなハードなロック・サウンドを期待していると見事に肩すかしをくらうが、ブラック・ミュージックのお好きなかたには、一度は聴いてみて欲しいサウンドが満載だ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「ROAD RUNNER」

もちろん、ボ・ディドリー作のあの曲だ。ウィンターにしては、妙に明るく脳天気な曲調で、ロカビリー路線に属するナンバー。

ワーナー・アニメの鳥のキャラクター、「ロードランナー」の鳴きまねなどしたりして、実にユーモラス。

ウィンターはこういうおふざけ路線、本当は好きなのかもね。

ホーンを前面に押し出したツイスト・サウンド、なかなかごキゲンです。

3位「KIND HEARTED WOMAN」

こちらはアコギ・ブルース路線の一曲。

ご存じロバート・ジョンスンのナンバーに、同じく彼の「WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND」「ME AND THE DEVIL BLUES」をメドレーでつなげて歌っている。

ロバジョン風の甲高い声を絞り出すようにして歌うさまは、バンドでのライヴにおけるウィンターからは、まったく想像のつかない世界。

全然知らない人が聴いたら、黒人、しかも結構トシのいったひとが歌っていると勘違いしそうなくらい、ディープなカントリー・ブルース。でもこれもまた、ジョニー・ウィンターの世界のひとつなんである。

似た趣向の曲としては、ロバジョンの「WALKIN' BLUES」を本歌取りした「LEAVIN' BLUES」も。こちらのスライド・プレイもいいね。「32-20 BLUES」のカヴァー、「38-32-20」なんてのもある。

2位「GANGSTER OF LOVE」

テキサス出身のブルースマンにしてヒップなファンカー、ジョニー・ギター・ワトスンの代表曲のカヴァー。

これも、ウィンターのパブリック・イメージ(ゴリゴリの硬派ギタリスト)とはだいぶん違う、ナンパな選曲だよね。

ところが、聴いてみればナットク。陽気でいなせな愛のギャングスターを気取るウィンターも、なかなかサマになっとるのだよ。

ちょっと酔っぱらったようなレイジーな歌、そしてテクニックよりもファンキーな雰囲気重視のギター・プレイが、なんともカッコよろしい。ロカビリー路線の中でも、出色の出来ばえである。

1位「GOIN' DOWN SLOW」

「セントルイス・ジミー」ことジェイムズ・オーデンの名曲を、アコースティック・スタイルでカヴァー。

黒人、白人、ブルース系、ロック系を問わず、多くのアーティストが取り上げているが、ウィンターのヴァージョンはとりわけ素晴らしい。

内省的で陰影にとんだヴォーカルといい、無駄のまったくない、カッチリとしたギター・プレイといい、文句なし。

B・Bやマディ、ウルフにも決してひけを取らない、正真正銘のブルースマンであることが、この曲を聴けばよくわかる。

静と動、陰と陽、見事なコントラストをなす、若き日のウィンター・サウンド、ぜひ一度聴いてみよう。

ノスタルジック、でもいつの時代にも通用する、普遍的な魅力を持つブルースをそこに発見出来るはず。

<独断評価>★★★☆

2003年6月16日(月)

#171 ザ・バンド「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」(東芝EMI/Capitol CP21-6027)

ザ・バンドのデビュー・アルバム。68年リリース。ジョン・サイモンほかによるプロデュース。

前年にデビュー、76年に解散するまでの短い活動期間であったが、いまだに多くのバンドに影響を与え続けているザ・バンド。

もともとは「ホークス」という名でロニー・ホーキンスのバックをつとめていたが、ボブ・ディランに見出され、彼のバックで演奏したことで俄然脚光を浴びた彼ら。レコーディングに約一年もかけた、満を持してのバンド・デビュー盤である。

そのディランが自ら絵を書いたという淡彩のジャケットが、なんとも印象的だ。

<筆者の私的ベスト3>

3位「CHEST FEVER」

正直言って筆者は、十代の前半ではじめてザ・バンドを聴いたとき(リアルタイムでは「カフーツ」あたりだったかな)、まるでピンと来なかった。

当時筆者はバリバリのブリティッシュ派だったということもあるのだが、いかにもアメリカ的な(彼らは本当はカナダ出身だけど)まったりとした音にのめり込むことが出来なかった。(それは彼らを育てたディランについても同様なんだが。)

でも、今聴いてみると、意外と耳にしっくり来るんだな、これが。

やはり彼らの音楽は、何十年もかけてさまざまなスタイルの音楽を聴きこんで初めて、ようやくその「よさ」がわかるタイプのものなのかもしれない。

さて、筆者が3位に選んだのは、ギターのロビー・ロバートスンの作品。

この一枚の中では、一番ロックっぽい感じのナンバーだ。

どことなく、スティーヴ・ウィンウッドのいたスペンサー・デイヴィス・グループ、トラフィックを思い起こさせるグルーヴがあって、全体にカントリー系のシブめの曲が多い本盤では、ちょっと異色。

ロバートスン、リーヴォン・ヘルムらのコーラスもなかなかソウルフルだし、ガース・ハドスンとおぼしきオルガンのプレイがなんともイカしとります。

2位「I SHALL BE RELEASED」

もちろん、ディランの作品。グループの門出にあたって、兄貴格のディランが彼らに捧げた、最高の贈り物といえよう。

ヘルム、ロバートスンを中心にしたファルセット・コーラスで、この清冽なる名曲を歌い上げるザ・バンド。

アメリカ中、いや世界中のありとあらゆる「理不尽」なこと、「非人間的」なことに対するプロテスト。これがまた、心に沁みわたります。

他にもジョーン・バエズ、ディラン御本人も歌っていてそれぞれに秀逸なんですが、やはり決定版はこれかと。

1位「THE WEIGHT」

ここでアルバム・タイトルの由来について説明しておくと、「ビッグ・ピンク」とは、67年ころからすでに音楽コミュニティだった町、ウッドストックの北東、ウェスト・ソーガティーズにあった家のニックネーム(壁がピンク色だったようだ)。

彼らはそこを借りて住み、その地下室でレコーディングやセッションを重ねていたことから、このタイトルが付いたのである。

かのエリック・クラプトンも、67年ころ彼らとそこではじめてのジャム・セッションを行い、彼らの音楽性にいたく衝撃を受けたという。

それまでのギター中心のラウドな音から、キーボード、ホーンなどを多用した色彩感あふれるサウンドへと、クラプトンの嗜好が変わっていったのも、彼らとの出会いがきっかけだったのだ。

そんな強烈な個性、魅力を持った彼らの「マスターピース」ともいえるのが、この曲。

ロバートスンの作品。でも、リードで歌うのはヘルム。3コーラス目でようやく作者本人が歌わせてもらってます。

アコギのイントロからして、実に土臭くて、いなたい。続いてドラム、ヴォーカルが入っていく。

ピアノの響きがいかにも優雅で、シンプルにして端正な演奏。刺激的なギター・ソロも、挑発的なシャウトも何もなし。

その昔筆者は、「こんな『大人』なロックってあり?」とつい思ってしまったわけだが、今では「そーいうのも十分あり」と思えるから、面白い。

ハメをはずして騒ぐだけがロックじゃない。そういうことさ。

歌詞にしても、二十代なかばから三十そこそこの若さで、人生の「重荷」とか「苦渋」とか「悔恨」とかを歌っていたりして、ちょっと老成しすぎじゃない?って感じもあるけど、四十代なかばの筆者がいま聴けば、非常に共感できたりする。

そういう音楽を、その年齢ですでに生み出せたこと、これも考えればスゴい才能だと思う。

デビュー作にして、最高傑作。その高い完成度には、ホント、舌を巻きまっせ。

<独断評価>★★★★★

2003年6月21日(土)

#172 エアプレイ「ロマンティック」(RVC RVP-6456)

エアプレイ、最初にして最後のアルバム。80年リリース。

エアプレイとは、プロデューサー、コンポーザー、アレンジャーとして名高いデイヴィッド・フォスター(kb)、ジェイ・グレイドン(g)のふたりに、ヴォーカルのトミー・ファンダーバーグが加わったユニット。

アルバムには彼らに加えて、親交のあったミュージシャンが多数参加している。TOTOのジェフ&スティーヴ・ポーカロ兄弟、スティーヴ・ルカサー、デイヴィット・ハンゲイト、レイ・パーカー・ジュニア、ビル・チャンプリン、トム・ケリーほかの豪華な面々だ。

<筆者の私的ベスト3>

3位「NOTHIN' YOU CAN DO ABOUT IT」

フォスター、グレイドン、スティーヴン・キップナーの作品。

もともとは前年、グレイドンがマンハッタン・トランスファーのアルバム「EXTENSIONS」をプロデュースした時に提供した楽曲。

つまり、作者自身によるパフォーマンスなわけだが、これもマントラ版に負けず劣らず、いい出来だ。

衝撃的なブラスのイントロからいきなり、フォスター=グレイドンのファンクな世界が全開。

中間部では、グレイドンの天翔けるようなギターももちろん聴ける。

一分のスキもない緻密なアレンジ。完璧な演奏。そして最高レベルの技術を駆使したレコーディング。

もう、文句のつけようがありません。

そして意外に善戦しているのが、当時ほとんど無名だったセッション・ヴォーカリスト、ファンダーバーグだろう。

広い声域、のびやかな声質をフルに生かして、ソロはもちろん、多重録音コーラスにも挑戦しているのだが、これがなかなかキマっている。

こういう才能をもった人々がゴロゴロしているんだから、アメリカって国はスゴいやな。ホントに層が厚いわ。

2位「CRYIN' ALL NIGHT」

フォスター、グレイドン、スティーヴン・キップナーの作品。

早めのテンポのロック・ナンバー。シンセとツイン・ギターのからむイントロからして、ドラマティックでカッコいい。

ハンゲイト=ポーカロという最強のリズム隊のサポートを得て、なんともごキゲンなグルーヴだ。

そして、キレのいいファンダーバーグの歌声が、これらにからみ、互角で渡りあう。

グレイドンのリフも要所要所でバッチリと決まって、聴く者を唸らせる。名人はさすがに期待を裏切らないね。

キャッチーなメロディもまた、印象的。どうしてこう、いい曲ばっかり書けるんだろう。凡人はうらやむばかりであります。

1位「AFTER THE LOVE IS GONE」

いい曲がてんこもりのアルバムなので、迷いに迷ったのだが、これに決めた。

フォスター、グレイドン、ビル・チャンプリンの作品。

これまた彼らが、アース・ウィンド&ファイアーのために提供していた楽曲。前年のアルバム「I AM」に収められている。

数あるラヴ・バラードの中でも白眉といえるこの名曲を、当時最高級のメンバーがプレイしたのだから、出来が悪いわけがない。

特にこの曲におけるキー・ポイントは「ヴォーカル」であろうが、ファンダーバーグの歌いぶりは実に見事だ。

彼は、どちらかといえばTOTOのボビー・キンボールのように、ハイトーンで鋭角的に攻めるタイプの歌い手なのだが、モーリス・ホワイトのように中低音をきかせて、シブく歌いあげることも全然OKなのである。まさにオールマイティ。

やっぱ、本場にはかなわねーやと、二度脱帽である。

また作者のひとりチャンプリンの、コーラスでの好サポートも光っているし、グレイドンの多重録音ソロもエクセレント。

まさに珠玉の一編なり。

当時はAORとかなんだとかいろいろレッテルを貼って売られていたが、今改めて聴き返してみると「良質の音楽」、このひとことに尽きると思う。とくに曲作りとアレンジに関しては、超一流の「職人技」を感じるね。

今では音楽活動もマイ・ペースで、かなり寡作のフォスターとグレイドンだが、当時は若さ、パワーに満ちあふれた音楽を精力的に生み出していたのが、よくわかる。

当時からのファンはいうまでもなく、若いリスナーにも、おススメである。

<独断評価>★★★★★

2003年6月24日(火)

#173 ビリー・ジョエル「ソングズ・イン・ジ・アティック」(CBS/SONY 20KP 733)

ビリー・ジョエルのファースト・ライヴ・アルバム。81年リリース。

77年発表のアルバム「ストレンジャー」で全世界的にブレイクした彼の初のライヴ盤は、80年6〜7月のサマーツアーの模様を収めながらも、なぜか初期(71〜76年)の4作に絞り込んだ選曲となっている。

アルバム・タイトル(屋根裏部屋にしまわれていた歌)が示すように、彼がブレイクする以前の、ほとんど知られていない名曲を集めたものといえる。

これは、すでに超売れっ子、スーパースターとなっていた彼が、あえて「初心忘るべからず」ということで企画した一枚なのだろう。ジョエル自身がライナー・ノーツを書いているほどの、入れ込みようだ。

<筆者の私的ベスト3>

3位「さすらいのビリー・ザ・キッド(THE BALLAD OF BILLY THE KID)」

同じ名前だから、かどうかは知らないが、ジョエルにとって「心のヒーロー」ともいうべき伝説的人物、ビリー・ザ・キッドを歌ったナンバー。

セカンド・アルバムにして、彼の存在を世間に広く知らしめた「ピアノ・マン」(73年)に収められた名曲。

オールド・タイミーなスタイルのピアノが全開。どこかのどかで、ノスタルジックな曲調は、まさに「古き佳きアメリカ」そのもの。

現代の吟遊詩人、ビリー・ジョエルが歌う、放浪するビリー・ザ・キッド像は、街から街へとツアーを続けていくジョエル自身と、見事にダブっている。

ジョエル自身のハーモニカでゆっくりと始まり、頻繁にテンポ・チェンジを繰り返す。ピアノとバックとの掛け合いなど、メリハリに富んだ曲構成もまた、聴きものだ。

2位「さよならハリウッド(SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD)」

「ストレンジャー」発表以前の彼のナンバー中、もっともポピュラーな一曲。76年リリースの第四作「TURNSTILES(ニューヨーク物語)」から。

彼の歌の中に一番出てくる都市は、もちろん彼が生まれ育ったニューヨークだが、彼はそれ以外にも、さまざまなアメリカの地名を曲中に歌い込んでいる。

この曲もその一例だし、本アルバムでは他に「ロサンゼルス紀行」なんてのもある。

フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」風、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」を思わせる曲調が、なんとも懐かしい感じ。

リッチー・カナータの力強いサックス・ソロをフィーチャー。これぞ王道ポップス!と唸らせる。

もちろん、ジョエルの喉とピアノも絶好調。スタジオ版にも、決してヒケをとらない出来ばえだ。

1位「マイアミ2017(MIAMI 2017)」

こちらもまた、アルバム「TURNSTILES」から。

近未来のアメリカをテーマにしたSFチックな内容の作品。副題の「SEEN THE LIGHTS GO OUT ON BROADWAY」が示すように、歌詞中にニューヨークの描写もふんだんにちりばめられている。

これを演奏する場は、当然ここっきゃないでしょ!ということで、NYCはマディスン・スクウェア・ガーデンの、満場の観衆を前に披露。いやー、ウケるのなんのって。

特に(未来の)ヤンキーズについて歌ったところでは、観衆も狂喜乱舞状態。

生粋のニューヨークっ子、ビリー・ジョエルの面目躍如の一曲である。

彼のピアノ・サウンドをベースに、シンセを効果的にあしらったサウンドが、当時の筆者には新鮮に聴こえたものだが、20年以上の歳月を経ても、いまだにその魅力は色あせていない。

筆者自身、76年、77年と二回彼のライヴを聴いているが、これらのどの曲も、ヒット曲と同様愛着を持って歌いこんでいたのが印象的であった。

ヒット曲ぞろいとは言い難いが、ジョエルのすぐれて叙情的な歌詞とメロディ、その確かな歌唱力、そしてバックのパワフルなサウンドがこの一枚をライヴ盤の秀作にしている。

意外と忘れられがちな一枚だが、チェックしといて損はないと思うよ。

<独断評価>★★★★☆

2003年6月29日(日)

#174 高中正義「アローン」(ポリドール 28CK0030)

高中正義、81年リリースのアルバム。

76年の「セイシェルズ」以降、着実にアルバムをリリースしてきた彼にとっては、10枚目にあたる作品。

彼の初期のサウンドのイメージは、「ひたすらラテンでネアカ」というものだったが、このアルバムではしっとりとした大人っぽいバラード・プレイも聴かせている。

<筆者の私的ベスト4>

4位「"SPEED OF LOVE"」

アルバムではトップに収録。タイトル通り、ひたすらスピーディでスリリングな音を聴かせてくれる。

高中の多重録音によるツイン・ギターが実にカッコよろしく、ゲストの上田正樹のシャウトが、サウンドにさらに迫力を加えている。

ドラム(渡嘉敷祐一)、ベース(高橋ゲタ夫)らのプレイも最高にノリが良い。腰にビンビン来る音ナリ。

高中のナンバーとしては、結構ハードでヘヴィー。ストイックささえ感じる辛口のサウンドで、筆者としては気に入っている。

3位「SHE'S RAIN」

これはどちらかといえば、従来の高中サウンドの中心ともいうべき、明るく軽やかな路線。

一聴してすぐストラトキャスターとわかる、カラッとしたギターのトーンが魅力的。

これを使って、パーカッシヴなプレイを聴かせてくれるのだが、ホント、心までウキウキしてくる。

バックには全面的にストリングスを導入、ギターとの相性も意外によい。

2位「THE NIGHT DELAY」

ドラマチックなイメージの一曲。「SHE'S RAIN」同様、星勝がストリングス・アレンジを担当。これがさすがの出来ばえ。

全編、ギター・サウンドとストリングスのコラボレーションにより、きわめて精緻なサウンドが展開する。

単にギター・プレイヤーとしてテクニックがあるだけでなく、コンポーザー、アレンジャー、サウンド・クリエイターとして見ても、高中正義は超一流のひとだと思う。

この曲での泣きのギター・プレイも、もちろん気合いが入っていて素晴らしいが、何より、音の全体的なまとまり、バランスがよい。再聴、三聴にもたえうる音とは、こういうのをいうのだろう。

1位「ALONE」

1位はやはり、このタイトル・チューンだろうな。もちろん、他のすべてのナンバー同様、高中の作曲。

脳天気なプレイだけが、オレじゃないぞとばかり、メロウでメランコリックなバラードを演奏しているが、これがなかなかよろしい。

ラテンのパーカッション・サウンドにのせて、ストラトキャスターを泣かせまくる高中。

若干サンタナっぽいなという感じはあるが、タメのきいたオーヴァー・ドライヴ・サウンドが耳に心地いい。

何コーラスものギター・ソロを含めて、すみずみまできちんと計算されたアレンジ。すべて高中本人が編曲しているのだが、ストリングスの使い方もうまい。

極めて「職人」的な仕事だな〜と感じます。ロックの自然発生的、偶発的なサウンドの面白さとはまた違うのですが。

同年リリースのアルバム「虹伝説」と合わせて、彼の音楽の円熟ぶり(といっても当時まだ28歳という若さだったが)を示す作品といえそう。

ギタリストなら、一度はチェックしてみて欲しい。

<独断評価>★★★★


「音盤日誌『一日一枚』」2003年5月分を読む

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