音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2004年3月7日(日)

ヨーヨー・マ「SOLO」(SONY SK 64114)

フランス生まれの中国系チェロ奏者、ヨーヨー・マの無伴奏ソロ・アルバム。99年リリース。

チェロという弦楽器は、アンサンブル用だけでなく独奏にも比較的適していて、それ用に書かれた楽曲も多いのだが、独奏曲だけで、しかも最も著名なバッハの「無伴奏ソナタ」抜きでまるまる一枚作ってしまうというのは、商売的にはかなりの「冒険」である。

当代随一の人気チェリストならではの企画と言えよう。

<筆者の私的ベスト2>

2位「SEVEN TUNES HEARD IN CHINA(中国で聞いた七つの歌)」

本アルバムに収められている曲は、大半が「現代音楽」の範疇に入る。その作曲者の名も大半が、われわれには馴染みのないものであろう。

この組曲風の七章を書いたブライト・シェンもそんなひとり。代表作は「CHINA DREAMS」。そう、ヨーヨー・マと同じく、中国人の音楽家、盛中亮なのである。

55年、上海生まれ。多感な思春期に文革を体験し、バルトーク、ストラヴィンスキーといった民族楽派に影響を受けた彼は、現在の中国を代表する中堅作曲家といえるだろう。

彼の紡ぎ出す音楽は、あくまでも西洋音楽をベースにしながらも、そこはやはりアジア人、非常に瞑想的な雰囲気を持ち、その一方で清新な躍動感も感じさせるものだ。

同胞で、しかもタメ年でもあるヨーヨー・マ(馬友友)は、シェンの音楽の本質をもっとも理解する演奏者といえるだろう。

もっとも望ましい弾き手を得ることで、この作品はベストといえる仕上がりを見せている。

ときには胡弓のように流麗で官能的な響き、ときには筝のようなダイナミックなプレイ(実際にコンサートを観に行ったひとのレポでは、ボウだけでなくバチまで使っていたそうだ)を聴かせてくれる。

技術、響き、そして情感の表現、すべてにおいて、文句なしの出来である。

1位「SONATA FOR SOLO CELLO Op.8(無伴奏チェロ・ソナタ 作品8)」

何を隠そう、筆者がこのCDを買ったのは、この曲を聴くがためであった。

ベラ・バルトークと並んでハンガリーを代表する作曲家、ゾルターン・コダーイ(1882-1967)の作品。

筆者は約20年前、堤剛の演奏で初めてこの曲を知ったのだが、西洋音楽とも東洋音楽とも言い切れぬ、独自の音世界に思わず引きずりこまれてしまったものだ。

ハンガリーの民俗音楽を匂わせる、土臭い旋律。広大な草原の中で、一台のチェロを弾いているさま、そんな風景が思い浮かんでくる一曲なのだ。

曲は三章の構成となっており、通しで弾くと30分近い長尺である。

その中でも、第一章冒頭のフレーズは、何度聴いてもインパクトがある。ベートーベンの「運命」のそれにも匹敵する、そんな感じ。

まさに、「つかみ」の一撃というべきか。

この曲は、西洋のいわゆる教会音階とは異なる、独特の音階を使用しているのだが、楽器の調弦もそれに合わせて、C弦やG弦をチューン・ダウンした変則チューニングを採用している。

そのため、通常のチェロ以上に中低音に異様なまでの迫力が感じられる。

ボウの動きにより発せられる音が、あたかも馬に打つ鞭のようにも聴こえるのだ。

さて、この曲のベスト・テイクは、作者同様ハンガリー出身のヤーノシュ・シュタルケルによる演奏であると多くの評者により言われて来た。

筆者もシュタルケルの演奏は愛聴しており、同じ意見である。それは今でも変わらないのだが、ヨーヨー・マのこのヴァージョンも、なかなか捨てがたいものがある。

シュタルケルの音色の重厚さ、ワイルドさに比べると、こちらのほうがもう少し軽くてジェントルかなという印象はあるが、技術的には互角。

30分近く、聴く者の神経を最後まで一瞬たりとも弛緩させることなく引っ張っていく。この演奏力はやはり、ただものではない。

素顔の温厚なキャラクターとは裏腹に、"紙一重"の狂気をも感じさせるヨーヨー・マの演奏。まぎれもなく、「天才」の業だと思うね。

<独断評価>★★★★

2004年3月21日(日)

ウィリアム”ブーツィ”コリンズ「ウルトラ・ウェイヴ」(WARNER BROS. WPCP-3682)

初めにひとこと。今日からまた、大幅にフォーマットを変えてみたいと思うので、よろしく。気分は「新装開店」である。

さて、きょうの一枚はP−ファンクの立役者のひとり、ブーツィ・コリンズのファースト・ソロ・アルバム。80年リリース。

アルバム発表当時、筆者は大学生だったが、同じバンドのドラマー、M君がこの手のファンク・ミュージックがオキニで、ブーツィも彼の影響で聴き始めたという記憶がある。

筆者の当時の趣味は、ユートピアみたいなプログレッシヴなロックだったが、それとはかなり趣きの異なるP−ファンクも結構好きだった。タツローあたりを好んで聴いていたことも関係あるかもしれない。

ブーツィについて簡単に紹介しとくと、51年オハイオ州シンシナティ生まれ。ベーシストとして18才の若さでジェイムズ・ブラウンのバック・バンド、JBズに参加。P−ファンク軍団の総帥、ジョージ・クリントン率いるファンカデリックに参加して注目を集め、以降パーラメント、ブーツィズ・ラバー・バンドにて70年代のP−ファンクをリードしてきた人なのである。

まあ、そんな瑣末な知識はどうでもいい。とにかく音を聴いてみるのが一番。

メロディより、リズム、リズム、リズム。とにかく全編、猥雑なファンクのグルーヴが渦巻き(まさにウルトラ・ウェイヴだな)、聴き手をとりこにしていく。

音だけではない。歌詞も相当ヤバい。卑猥で、お下品。とても直訳出来ないようなワードの連続なんである。日本では幸か不幸か、ことばの障壁が合って、そのへんのところは全然話題にも上らないんだけど。

でも、ジャケット写真を見ただけでも、彼のいかがわしさ(もち、いい意味だよん)がすぐわかるのでないかな。

ステージでは星型のサングラス、胸を大きく開けたラメのジャンプスーツに厚底ブーツ、白マントに王冠、これまた星型の変態ベースという超「キテいる」スタイル。エクストリームなカッコのプレイヤーの多いP−ファンクの中でも、ひときわ目立つハデさ。

そのベース・プレイも天衣無縫というか、自由闊達というか、変幻自在というか、アドリブ色の強いもの。これまた、マニアにはたまらないものがあるでしょう。また、歌やラップも、七色の声をたくみに使い分けている。なんとも器用なひとである。

本作では、粘っこ〜いファンク・ナンバー「MUG PUSH」、ブーツィ流なんちゃってブルース「IS THAT MY SONG?」、EW&Fをちょっとおちょっくたようなサウンドの「IT'S A MUSICAL」、P・ベイリーばりのファルセットを聴かせる「FAT CAT」、コーラスとの絡みがカッコいい「SOUND CRACK」など、聴きどころが多い。

思い切りファンキーでありながら、どこか非常にポップで耳になじみやすい。まさに天才の仕事だと思いますね。

皆さんも、たまにはこういう理屈抜きにカッコいい音で、脳内をリフレッシュしてみてはいかが?

<独断評価>★★★☆

2004年3月22日(月)

ディープ・パープル「ディーペスト・パープル」(WARNER BROS. WPCP-4545)

現在来日中の老舗ハードロック・バンド、ディープ・パープルのベスト・アルバム。80年リリース。

もう、それ以上の説明など不要だろう。とにかく、黄金期(第2〜3期)のパープルのエッセンスがこの一枚に凝縮されている。

日本では最初の本格的ヒットとなった「ブラック・ナイト」に始まり、極めつけの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に至るまで、彼らの代名詞的ナンバーが12曲。感涙モノである。

最近ではヤンキー・ロックの旗手、氣志團より敬意をこめてサウンドをパクられているパープル。歴史的評価はおいといて、彼ら以上に日本人に愛されたロック・バンドが他にあったろうか?

多分、ないような気がするね。

さて、パープルのベスト・アルバムはこれ以前にも「24 CARAT PURPLE」というのが75年に出ているが、それとの大きな違いは、「ハイウェイ・スター」「スペース・トラッキン」「紫の炎」「嵐の使者」「デイモンズ・アイ」が加わり、「ネヴァー・ビフォア」が外されていること。当アルバムの方が、より多くの人気曲が収録されているといえますな。

また、「スピード・キング」は「イン・ロック」とも「24〜」とも違う、第三のテイクを収録している。

<聴きどころその1>

ディープ・パープルの魅力は、たとえばリッチーのトリッキーなプレイとか、ジョンの緻密なキーボード・ワークとか、はたまたリズム・セクションのパワーとか、色々挙げられるだろうが、やはりその「歌声」にとどめを刺すのではないだろうか。

もし、パープルのリード・ヴォーカルがロッド・エヴァンスのままであったら、と想像してみるといい。多分、今日の彼らの栄光はなかったはずだ。

イアン・ギラン、彼こそはパープルを人気バンドたらしめた最大の功労者だと思う。

彼の、耳に突き刺さるような超高音シャウト、これはエヴァンスはもとより、デイヴィッド・カヴァーデイル、グレン・ヒューズ、ジョー・リン・ターナーら、後継ヴォーカリストの誰も真似が出来なかった。

ここはやはり名曲「チャイルド・イン・タイム」を聴くといい。最後までフル・テンションの歌声。彼の凄まじさがよくわかることだろう。

<聴きどころその2>

もちろん、歌だけではない。ハードでパワフルな演奏も彼らの大きな魅力だ。

ただ、当時我々が「スーパー・テクニック」だと思って聴き惚れていた演奏も、いま聴いてみると「なんかフツー」という感じがしないでもない。

これは別に彼らがヘタだったということではなく、それだけロックというものが、短期間に驚異的な進化を遂げたという証拠なんだと思う。

多くのロック少年たちは彼らをお手本にしてロック演奏のABCを学び、そしてある者たちは彼らよりさらに高い境地へと飛躍していった、そういうことだと思う。

当時は過激だと思っていたリッチーのプレイも、今聴くとおそろしく「オーソドックス」なものに聴こえる。たとえば「ブラック・ナイト」しかり、「ストレンジ・ウーマン」しかり。

当時のもうひとつの人気バンド、ZEPは非常にコピーが難しかったが、パープルはそれに比較すれば、基本テクニックさえあれば真似るのもさほど困難ではなかった。これも、大人気の要因だったのだろう。

実際、筆者の周辺でも、中3くらいで「ハイウェイ・スター」とかをほぼ完コピしているバンドがあったくらいだ。

子供にもわかりやすいサウンドなので、玄人ウケは余りしないが、支持層はものすごく広い。これが彼らの強みだったのだと思う。

その代表例が「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だと言えよう。コピー嫌いなこの筆者でさえ、一時はリッチーのソロをそらんじていたほど。これぞロック・ギタリストの必修課題曲、ナンバーワン!

日本のバンド・シーンにおいて、かつて自分が最大の影響力を持っていたなんて、もはやエレキを廃業したリッチーにはピンと来ないでしょうけどね。

この一枚を聴き終わる頃には、あなたの手は自然とエレキ・ギターに伸びて、「あの」フレーズを弾き始めているはず。間違いない(笑)。

<独断評価>★★★★☆

2004年3月28日(日)

モーニング娘。「ベスト!モーニング娘。1」(zetima EPCE-5089)

モーニング娘。の初ベスト盤。2001年リリース。

この31日には2001年からの3年間のベスト盤「ベスト!モーニング娘。2」をリリースする彼女たちだが、この「1」が打立てた230万枚という大記録に、果たしてどこまで迫れるだろうか。

娘。を国民的人気グループにまでのし上げた初ミリオン・ヒット「LOVEマシーン」に始まり、正式デビュー前、5万枚限定のインディーズ・シングル「愛の種」に至るまでの15曲。おなじみのナンバーが満載である。

ところであなたは、最新のモー娘。のシングル曲のタイトルは何か、言えるだろうか?

おそらく、大半のかたはご存じないのではないだろうか。

かつて、最強のヒットチャート常連であった娘。にしてこのありさま。いったい何故、こんなことになってしまったのだろうか?

この一枚を聴きながら、考えてみよう。

モーニング娘。は97年秋に5人で結成。翌年8人編成に増員し、「サマーナイトタウン」「抱いてHOLD ON ME」の連続ヒット、ことに後者は初めてチャート一位となり、一躍注目された。

この二曲に、成功の鍵があったのは間違いない。

聴いてみて感じるのは、「ギリギリ感」とでもいうべきもの。彼女たちが歌いこなせる限界のキーやテンポに挑戦し、はっきりいって「苦しい」ところさえあるが、そのエッジ感覚が実はミョーに色っぽいのだ。

ことに、当時メンバー中最年少ながら、抜群に歌のうまい福田明日香の存在は大きかった。(「Never Forget」などを聴くと、そのことを痛感する。事実、彼女が卒業した後、娘。の歌のテンションはいっぺんに下がってしまった。)

歌詞にしても、最近のシングル「愛あらばIT'S ALL RIGHT」「Go Girl〜恋のヴィクトリー〜」に見られるような健全・穏健路線ではなく、男女のドロドロとした恋愛模様を歌っている。これがまた、聴き手にとっては刺激的だった。

のちの彼女たちのセールス文句となった「セクシー」という概念が、笑いをとるためのネタではなく、本当にそこにあったのだ。

新旧の曲を聴き比べてみると、同じ名前でありながら、まったく別のグループになってしまった印象さえある。実際、共通のメンバーはたったの3人(安倍・飯田・矢口)だけだし。

娘。というグループは、ほぼ定期的に旧メンバーを卒業(脱退)させ、新メンバーを採用し、世代交代を行うことで生き延びてきたグループではあるが、現在の平均年齢の異常に低いメンバーでは、おそらく、初期のナンバーを歌いこなすことは事実上不可能だろう。

たえず新陳代謝を繰り返すこと、これは諸刃の剣なのだ。

事実、このアルバムでは一番後期の曲「恋愛レボリューション21」の後、リーダーの中澤裕子が卒業し、4期加入の石川梨華がフロントをつとめた「ザ☆ピース!」から、シングルのセールスは下降の一途をたどっている。

やはり、歌作りそのものをおろそかにして、アイドルとしてのキャラクターを前面に押し出すようになってきたことが、凋落(おおげさに言えば、だが)の主要因ではないかと思うね。

まあそれでも、今だって十分人気グループであることに変わりはないが、全盛期、すなわち「LOVEマシーン」「恋のダンスサイト」「ハッピーサマーウェディング」「I WISH」と続く快進撃の時代に比べれば、そのパワー、一般リスナーへのアピール度は何分の一かに低下してしまったといえる。

「ベスト!モーニング娘。2」のセールスはおそらく、50万枚がいいとこかなという気がするね。

やはり、230万枚の実績はダテじゃない。どの曲も、プロデューサー兼作詞・作曲のつんく♂をはじめとして、アレンジャーの桜井鉄太郎、前嶋康明、小西貴雄、河野伸、ダンス☆マンといった人たちが実にクォリティの高い、いい仕事をしている。アイドル・ポップスといえば昔はお粗末なものしかなかったものだが、繰り返し聴くにたるだけのものがこの一枚にはある。

個人的には、フォーク・ロック路線の「愛の種」「モーニングコーヒー」、ラテン・テイストあふれる「サマーナイトタウン」、あの8人以外にはおそらく歌いこなせないであろうハイパーR&Bチューン「抱いてHOLD ON ME」、そしてバラードの名曲「Memory 青春の光」といった初期のナンバーが圧倒的に好みだな。娘。サウンドはこの「メモ青」で完成し、ピークを迎えたと断言していい。

もちろん、その後の「ラブマ」に代表されるお祭り系チューンも楽しい。セリフや合いの手、SEなどスタジオ録音ならではのお遊びもてんこ盛りで、あきさせない。

全盛期メンバーのあいつぐ卒業により、曲がり角を迎えているモーニング娘。このまま、お子ちゃま向きの甘ったるいアイドル・グループ路線を続けていくのか、あるいはもう一度原点に立ち戻って、曲作りを一から見直し、世代を越えたヒットで国民的な人気を取り戻すのか。

娘。そしてつんく♂から、今後も目が離せそうにない。

<独断評価>★★★★


「音盤日誌『一日一枚』」2004年2月分を読む

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