音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2001年11月4日(日)

バディ・ガイ「スリッピン・イン」(BMGビクター BVCQ-634)

1.I SMELL TROUBLE

2.PLEASE DON'T DRIVE ME AWAY

3.7-11

4.SHAME, SHAME, SHAME

5.LOVE HER WITH A FEELING

6.LITTLE DAB-A-DOO

7.SOMEONE ELSE IS STEPPIN' IN(SLIPPIN' IN, SLIPPIN' OUT)

8.TROUBLE BLUES

9.MAN OF MANY WORDS

10.DON'T TELL ME ABOUT THE BLUES

11.CITIES NEED HELP

バディ・ガイ、1994年の作品。エディ・クレーマーのプロデュース。

いつもハイ・テンションな歌とギターを聴かせてくれるバディだが、この一枚も勿論、全編気合いの入ったプレイがギッシリだ。

まずは、ボビー・ブランドのヒット、(1)。クレジットにはドン・ロビー=ディアドリック・マローンとあるが、当然ながらブランド自作の曲を買い上げたもの。

スロー・ブルースながら、のっけから歌のテンションは高く、ハイ・トーンのバディ節が全開である。

で、リズム隊の音、どこかで聴いた覚えがあるなあと思えば、今は亡きスティーヴィー・レイ・ヴォーン率いるダブル・トラブルの面々でした。

ベースのトミー・シャノン、ドラムスのクリス・レイトンのほか、この曲のみキーボードのリース・ワイナンスも参加。

SRVサウンド復活!という感じの、タイトな演奏が実にグーだ。

続く(2)はチャールズ・ブラウンの作品。アップ・テンポで、ガンガン飛ばしまくる一曲。

ここからは、チャック・ベリーのピアニストとして知られるベテラン、ジョニー・ジョンスンが登場。

ワウワウなどギター・エフェクト全開、若いもんにはまだまだ負けん!といわんばかりのギラギラしたバディのプレイが聴ける。それこそ、SRVも顔負け。

(3)もフェントン・ロビンスン作曲の典型的スロー・ブルース。

歌もギターも、(1)よりはメロウでしっとりとした雰囲気だ。また、ジャズィなセンスを湛えた、ジョンスンのソロ・プレイが味わい深い。

さて、曲調はまた一転、アップ・テンポの(4)へ。ジミー・リードの作品。

チャック・ベリーの「メンフィス」などと同系統のシャッフル・ナンバー。この「ノリ」が実に心地よい。バディも肩の力を抜いた自然体の歌&ギターを披露してくれる。

(5)はローウェル・フルスン作、タンパ・レッドのヒットで知られる、ミディアム・スロー・ナンバー。

マディの「フーチー・クーチー・マン」を思わせる重心の低いアレンジにのせて、バディの粘っこいギター・フレーズが炸裂! 聴き応え十分だ。若いロック・ギタリストにも参考になる、いかしたリック満載。

(6)はバディのオリジナル。歌詞から見るに、口説きソングといえるが、それにふさわしく、バディの歌も抑え目でムードがある。

スロー・ビートにのせた「泣き」のギターもまたよし。これを聴けば、世の女たちは皆イチコロ!?

アルバム・タイトルとしても引用された(7)はデニス・ラサール作、R&B系シンガーのカバーが多いナンバー。ファンキーなリフがいかしている。

シカゴのブルース・クラブではことのほか人気の高い曲だそうだ。

アルバム中では唯一のライヴ録音。客席の熱い反応がダイレクトに伝わってくる。

(8)ではふたたび、チャールズ・ブラウンの大ヒットを取上げている。ブラウン一流のメランコリックなメロディ・ラインが「気分」な、去って行った恋人へ贈るフェアウェル・ソング。

バディの歌もギターも実に繊細で、ちょっとオーティス・ラッシュ風。全体的にテンションの高い、このアルバムの中ではちょっと異彩を放っている。

(9)は、あらなつかしや、70年代エリック・クラプトンと共演した、「バディ・ガイ&ジュニア・ウェルズ・プレイ・ザ・ブルース」収録曲の再演。バディのオリジナル。

キャッチーなリフ、ヘヴィーなビート。今聴いても、なんともロック感覚あふれるナンバーで、ブルースという枠におさめきれないバディの幅広い音楽性を再認識できる。

(10)は、J・クインという詳細不明のアーティストのナンバー。

ブルースの本質とは何ぞや? そこそこにレコードも売れて名前も知られるようになったブルースマンが歌っているのは、本当に「虐げられた者たちの音楽=ブルース」といえるのか? そういう深く本質的な問題をつきつけたへヴィーなナンバーだ。

ハイ・テンションな歌、そして派手なスクウィーズ・プレイも絶好調の、スロー・ブルース。どことなく、アルバート・キングを匂わせるフレーズも聴かれる。

こうやって聴いて来ると、ギタリストとしての彼は、さまざまなギタリスト(ロック系も含む)の影響を受けながらも、コピーに終わることなく、必ず自分流に消化したフレーズを紡ぎ出しているのがよく判る。

最後の(11)は、ふたたびバディのオリジナル。「社会派」的な歌詞がちょっとユニークなナンバー。

ささやき、うめくような「引き」のヴォーカルは、ふだんの「押し」で迫る彼とはだいぶん趣きが違うが、これも結構イケてる。バディの引き出しの多さがよくわかる曲だ。

そしてギターのディストーション・トーンもまた、心にしみる。幕引きにふさわしい、味わいに満ちたナンバーだ。

アルバム発表当時、バディは57〜58歳。一般社会では定年間近、決して若いとはいえない彼が、往時と変わらぬ迫力あるヴォーカル、そしてエネルギッシュなギター・プレイを聴かせてくれる。驚嘆せざるをえない。

もちろん、65歳となった現在でも、現役バリバリ。レコーディングに、ライヴに、決してテンションを落とすことなく、精力的な活動を続けている。「生涯現役ブルースマン」、バディ・ガイはやはり無敵だ。

そんな彼のアルバムの中でも、この「スリッピン・イン」は、完成度が高く、一聴の価値があると思う。

この一枚から、彼の不滅のブルース魂、そして常に新しい音を模索する、進取の気性を感じとって欲しい。

2001年11月10日(土)

V.A.「BLUES MASTERS, VOLUME 6: BLUES ORIGINALS」(MCA/Rhino R2 71127)

1.BRING IT ON HOME(SONNY BOY WILLIAMSON II)

2.YOU NEED LOVE(MUDDY WATERS)

3.TEXAS FLOOD(LARRY DAVIS & HIS BAND)

4.GOT MY MO-JO WORKING(BUT IT JUST WORK ON YOU)(ANN COLE, WITH THE SUBURBANS & ORCHESTRA)

5.I AIN'T SUPERSTITIOUS(HOWLIN' WOLF)

6.LOVE IN VAIN(ROBERT JOHNSON)

7.I CAN'T QUIT YOU BABY(OTIS RUSH)

8.BULLDOZE BLUES(HENRY THOMAS)

9.MADISON BLUES(ELMORE JAMES)

10.SOMEONE TO LOVE ME(SNOOKY PRYOR)

11.I AIN'T GOT YOU(JIMMY REED)

12.THAT'S ALL RIGHT(ARTHUR "BIG BOY" CRUDUP)

13.I'M A MAN(BO DIDDLEY)

14.BOOM, BOOM OUT GOES THE LIGHTS(LITTLE WALTER)

15.PACK FAIR AND SQUARE(BIG WALTER &HIS THUNDERBIRDS)

16.I'M A KING BEE(SLIM HARPO)

17.IT'S A MAN DOWN THERE(G.L. CROCKETT)

18.BACK DOOR MAN(HOWLIN' WOLF)

「BLUES WASTERS」と名づけられたシリーズの中の一枚。1993年リリース。

MCAの音源を中心に、SONY MUSIC、PAULA/JEWEL、Vee-Jay、BMGなど他社の音源も含めて編集され、バラエティにとんだセレクションになっている。

タイトル中の「ORIGINALS」が示すように、ロック系アーティストによってカバーされた有名なブルース・ナンバーの、オリジナル・ヴァージョンが選曲されている。

まず(1)は、レッド・ツェッペリンのカバーでおなじみのナンバー。

サニーボーイのヴォーカル、そしてハープには、実に「深い」味わいがある。

続いて(2)は、ウィリー・ディクスン作、同じくZEPの「胸いっぱいの愛を」で歌詞がまるごと引用されたナンバー。

ここでは、マディ・ウォーターズによる、野太いヴァージョンを収録。

(3)は、スティーヴィ・レイ・ヴォーンのデビュー・アルバムのタイトル・チューンともなった、スロー・ブルース。

オリジナルはラリー・デイヴィス。ただし作曲者としてのクレジットはドン・ロビー。

日本ではあまり知られていないが、ロビー率いるデューク・レコードに所属していたシンガー。アルバート・キングのバンドを経て、B・B・キングの引きで彼のレーベルに所属したりもした実力派だ。58年の録音。

このヴァージョン、ギターのフェントン・ロビンスンのプレイも聴きもののひとつである。

(4)は、マディ・ウォーターズの十八番として知られている、あまりに有名な曲だが、実はアン・コールというジャンプ・ブルース系の女性シンガーがオリジナル。

彼女とツアーを共にしていたマディが、この曲の受けように目をつけて、ちゅっかり自分のおハコとして取り入れた、ということらしい。

マディに負けず劣らず勇ましい、アン・コールの歌いぶりにも注目したい。

(5)は以前このコーナーでも紹介したジェフ・ベック・グループ(第一期)の「トゥルース」でカバーされていたナンバー。

ジミー・ロジャーズ、ヒューバート・サムリンのツイン・ギターが奏でるリフがまことにカッコよい。61年録音。

(6)はもちろん、ストーンズがアルバム「レット・イット・ブリード」中でカバーした名曲。

なにせ37年の録音、音質はいまイチだが、心をゆさぶる歌声といい、独演とは思えぬ達者なギター・プレイといい、名演には変わりない。これぞ、デルタ・ブルースの粋。

(7)は、これもZEPにカバーされた名曲、オーティスのコブラでのファースト・シングル。

決してカバーに「食われる」ことのない、金字塔的な名唱だと思う。

(8)は、聞きなれないタイトルだが、「ゴーイン・アップ・ザ・カントリー」という別名を聞けば、皆さん、ピンと来るだろう。

名ブルース・ロック・バンド、キャンド・ヒートのカバーで知られるようになったナンバー。映画「ウッドストック」でもバックに流れていたし、最近では日本でクルマのCFソングにも使われた、どこかほのぼのとしたムードのカントリー・ブルース。

オリジナルはさすがに古くて、なんと28年。典型的なホーボーと呼ばれた放浪のシンガー、ヘンリー・トーマスが自ら吹くリード・パイプがいい雰囲気だ.

(9)は、スライド・ギターの大御所、エルモア・ジェイムズの自作自演。チェスの名盤「フーズ・マディ・シューズ」に収録されている。60年録音。

白人エルモア・フリークNO.1、ジェレミー・スペンサーがいた、フリートウッド・マックによりカバーされているので、おなじみであろう。(「ブルース・ジャム・イン・シカゴVOL.1」所収。)

エルモアのソリッドなスライド・プレイ、そしてワイルドなヴォーカルは実にゴキゲンだ。ノリノリ〜な一曲。

(10)は、ヴィー・ジェイ所属のハーピスト、スヌーキー・プライアーのオリジナル。56年録音。

この歌詞を全面的に書き替えたのが、ジェフ・ベック在籍時のヤードバーズの代表曲「ロスト・ウィメン」なのである。

オリジナル版、歌のほうはご愛嬌という感じの出来だが、そのハープはさすがに「貫禄」を感じさせるプレイである。

(11)は、クラプトン・フリークなら一度はそのソロをコピーしたであろう、第二期ヤードバーズ・ナンバーの原曲。(筆者も恥ずかしながらやりました。)

カルヴィン・カーターの作品、歌うはジミー・リード。55年の録音。こちらもヴィー・ジェイ音源から。

間奏部分は、ジミー・リードのハープをフューチャーしたもの。ヤーディーズ版と聴き比べてみると面白い。

(12)はキング・エルヴィスが最も影響を受けた黒人シンガーのひとり、クルーダップの作品。

エルヴィスによるカバー(アルバム「リコンシダー・ベイビー」などで聴ける)とくらべると、少し甲高い声が印象的だ。

46年の録音だから、バックの演奏スタイルも古めかしいが、それもまた微笑ましい。

(13)は、これまたヤーディーズの重要レパートリー(ライヴではラストに演奏されることが多かった)のひとつ。

オリジナルのボ・ディドリーも、重量感あふれる演奏がナイスだ。

(14)は、パット・トラヴァースによってカバーされたナンバー。不世出のハーピスト、リトル・ウォルターは、シンガーとしても一流であることが、これを聴くとはっきりわかる。

もちろん、ハープの方も、たとえようもなく素晴らしい音色だ。

お次の(15)では、ビッグ・ウォルターも登場。彼も負けじとヴォーカルで勝負。こちらもグーなんである。

やはり、すぐれたハーピストは歌わせても上手い。ハープのこころは「歌ごころ」なのだなと、改めて感じいった次第。

で、この曲のカバーといえば、J・ガイルズ・バンド。ともにいかしたロックン・ロールに仕上がっている。

ハーピスト三番勝負(!)の最後は、スリム・ハーポ。

(16)は、ジェイムズ・ムーア、すなわちスリム・ハーポ自身の作品。ヘンリー・グレイ、ルイジアナ・レッドらも取上げ、ストーンズや、日本ではシーナ&ロケッツなどもカバーしている有名曲だ。

スリム・ハーポはこれをシャウトせず、クールに歌う。前のふたりとはかなり趣きを異にしたヴォーカル・スタイルだが、これはこれでカッコいい。

(17)はオールマンズがカバーしたサニーボーイの「ワン・ウェイ・アウト」(W・ディクスン作)とかなり似通ったスタイルを持つナンバー。どうやらこの「イッツ・ア・マン〜」のほうが元曲らしい。

歌うは、日本ではほとんどおなじみのない、G・L・クロケット。

こちらはシャウト無縁の、鼻歌ソング的な歌いぶり。肩の力がまるきり抜けた感じだ。

でもなぜか、65年にリリースされるや、R&Bチャートの上位を占めるヒットになったというから、世の中わからない。

さらには、ジミー・リードが「アイム・ア・マン・ダウン・ゼア」なるアンサー・ソングまで作って、これまたヒットしたというおまけのエピソードまである。

ラストの(18)は、ドアーズのカバーで知られる、へヴィーな(サウンドも歌詞も)ナンバー。ウィリー・ディクスン作品。

ジム・モリスンのヴォーカルもスゴみがあったが、オリジナルのウルフも決して負けてはいない。めいっぱいの迫力だ。

ちなみに、ギターはサムリンの他、デビュー当時のフレディ・キングも参加しているようだ。よ〜く耳をすまして聴きわけて欲しい。

以上18曲、いかにブルースがロックの成長の上で欠かせぬことの出来ない「栄養源」になったかを語る、雄弁な証拠ぞろい。

単独では入手しづらい、貴重な音源もいくつか含まれているから、買って損はない。

ブルース・ファン、ロック・ファンともに、超おススメである。

2001年11月18日(日)

バッド・カンパニー「10 FROM 6」(ATLANTIC 7 81625-2)

1.Can't Get Enough

2.Feel Like Makin' Love

3.Run With The Pack

4.Shooting Star

5.Movin' On

6.Bad Company

7.Rock 'n' Roll Fantasy

8.Electric Land

9.Ready For Love

10.Live For The Music

第一期バッド・カンパニーのベスト・アルバムである。85年リリース。

フリー解散後、ヴォーカルのポール・ロジャーズ、ドラムスのサイモン・カークが、元モット・ザ・フープルのギター、ミック・ラルフス、元キング・クリムゾンのベース、ボズ・バレルとともに、73年結成したのがバッド・カンパニー。

翌年、レッド・ツェッペリンが立ち上げたスワン・ソング・レーベルからアルバム「バッド・カンパニー」でデビュー。

シングル・カットされた(1)が全米ナンバーワン・ヒットとなり、華々しいスタートを切る。

処女作とはいえ、そのサウンドはかなり完成度が高い。ブルースをベースにした、ストレートなロックン・ロールがアメリカをはじめ、日本など世界中で人気を博したのである。

ファースト・アルバムからは、他に(5)、(6)、(9)と、4曲も収めれている。彼らとしても、このアルバムには格別の思い入れがあるようだ。

たとえばラルフス作の(1)は、ギターもカッティング中心の、実にシンプルな音作りなのだが、当時の、グラム・ロックに代表される豪華絢爛サウンドの流行の中では、逆に大変新鮮に聴こえたものである。今も、その魅力は色あせていない。

つまり、ギター・バンドの基本中の基本、みたいなベーシック・サウンドなので、永遠に古びないのである。

フリー時代の、あのベターッとした、ブリティッシュ丸出しの重たいサウンドは、かなりアメリカナイズされて、「抜け」のいい、カラッと乾いたものになっている。

これが、アメリカでも大成功をおさめた勝因といえるだろう。(1)のほか、同じくラルフス作の(5)も、その系統の佳曲だ。

もちろん、ロジャーズの持つ、「濃ゆ〜い」ブルース・フィーリング、メジャーの曲を歌っても、どこか陰影のあるブルーな歌声、これもアメリカ人には強くアピールしたハズだ。

グループのテーマ・ソングともいえる、ロジャーズ・カーク共作の(6)などに、それをはっきりと感じとることが出来る。

また、ラルフス作の(9)、これも実にロジャーズのブルースごころを見事に引き出したメロディである。

好調なスタートをした彼ら、その勢いをかって、翌75年にはセカンド・アルバム「ストレート・シューター」を発表する。

このアルバム・タイトルも、直球勝負型の、いかにも彼ららしいものではなかろうか。

同アルバムからは2曲、ヒットの(2)、(4)を収録。

これらを聴くに、アコギやピアノ、コーラスを加えるなどして、ブルースのみならず、カントリー色もかなり濃いサウンドに仕上がっている。

基本はハード・ロックだが、決して一本調子に終わらぬ、広い音楽性を感じさせてくれる。

(2)なぞは、歌詞にマディ・ウォーターズの強い影響を読み取ることができる。

前作の(9)についてもいえるが、基本的にバドカンの歌詞世界はシンプルなんである。「求愛」、つまり女性に「おまえを抱きたい」とストレートに迫る、こういうことやね。で、それこそが一番説得力があるもんだ。

70年代、いろんなギミック、ケレンで理論武装をしたロック・バンドが乱立した中で、徒手空拳ともいえる彼らのシンプルな世界は、潔くてすがすがしささえ感じさせてくれる。

さて、バドカンの快進撃はなおも続く。翌76年にはサード・アルバム「ラン・ウィズ・ザ・パック」を発表。

ここではタイトル・チューン、(3)を収めている。

サウンド的に大きな変化はないが、ストリングスを取り入れたりして、アレンジにもさまざまな工夫をしているのがわかる。

一年一作のコンスタントなペースは、77年リリースの4番目のアルバム「バーニング・スカイ」まで続く。

しかし、どうもこのアルバムは、彼らにとって満足の行く出来ではなかったと見えて、このベスト・アルバムのラインナップからは外されている。

2年おいて79年、「ディソレーション・エンジェルズ」を発表。

その中からの(7)は、スマッシュ・ヒットしたおなじみのナンバー。

3分17秒と、当時のロックのヒット・チューンとしては異例なほど短い時間に、ロックのエッセンスをギュッとつめこんだナンバー。ロジャーズの作品。実に曲作りがうまいんだよなあ、彼らは。

曲、歌、演奏、この三位一体というか、三者のバランスがよくとれているのだよ。

フリー時代のロジャーズみたいに、誰かひとりが突出するのでなく、ブルーズィなギター、ファンクなベース、タイトなドラムスと、それぞれが聴かせどころをちゃんと持っている。

さすが、バンド経験の豊かな四人だけのことはある。

もう一曲、ラルフス作の(10)も収録。

こちらは、彼らの音楽への真摯な姿勢が伝わってくるナンバー。

ボズのファンキーなベース・ラインが実にいかした、ノリのいい演奏だ。

ヴォーカルもラップ的な要素が感じられ、彼らの持つ「黒っぽい」フィーリングがもっとも顕著に表われた一曲。

ここまで順風満帆のように見えた彼らの活動であったが、歳月を経るにしたがい、音楽的にも人間関係的にも次第に煮詰まっていき、グループの中にすきま風が吹き始める。

それでも3年のブランクののち、82年に第一期最後のアルバムが出される。「ラフ・ダイヤモンズ」だ。

ここでは(8)を収録。ロジャーズの作品。

深みのあるヴォーカル、効果的に配されたピアノやストリングス、エコーを駆使した重層的なサウンド処理。明らかに、ストレート一本やりの初期とは違って、変化球も繰り出してくる、成長したバドカンの姿がそこにある。

70年代から80年代へと時代が移り変わるように、サウンドもまた徐々にではあるが、変化していく。

このアルバムの発表後、ロジャーズはバンドを去り、85年ジミー・ペイジらとの新バンド「ザ・ファーム」の結成に参加する。

そのザ・ファームも結局短命に終わってしまうのだが、デビュー・アルバムを聴くと、どこか過去のバドカンのサウンドをほうふつとさせる音だったりして、バドカン・サウンドの素晴らしさを改めて感じる。

残ったラルフスは、「バッド・カンパニー」のバンド名を継承し、新メンバーも加えて90年代までバンドを存続させていく。

でもまあ、筆者にしてみれば、ロジャーズ抜きのバドカンは、まったく別のバンドという気がする。

やはり、ロジャーズの歌声は、バドカンにとってなくてはならぬエレメントだったと思う。

最近でもロジャーズはソロ・アルバムやトリビュート・アルバムなどで地道に活躍しており、一ファンとしてうれしい限りだ。

が、やはり彼の才能のピークは、この第一期バドカンにあり!と筆者は断言してはばからない。

彼をずっと聴いてきたかたも、まだ聴いたことのない若いかたも、このベスト・アルバムで彼、そして見事なチームプレイをみせるバッド・カンパニーというバンドの魅力を確認してほしい。

2001年11月25日(日)

クリーム「WHEELS OF FIRE」(Polydor 559425)

IN THE STUDIO

1.White Room

2.Sitting On Top Of The World

3.Passing The Time

4.As You Said

5.Pressed Rat And Warthog

6.Politician

7.Those Were The Days

8.Born Under A Bad Sign

9.Deserted Cities Of The Heart

10.Anyone for Tennis

LIVE AT THE FILLMORE

11.Crossroads

12.Spoonful

13.Traintime

14.Toad

クリームのサード・アルバム。68年リリース。

LPでは2枚組として発表されたもの。1枚めはスタジオ録音。2枚めはフィルモアに於けるライヴ。

とにかく名盤中の名盤の誉れ高く、いまだに売れ続けているアルバムなのだが、なにがそんなにスゴいのか。

まずはジャック・ブルース(曲)・ピート・ブラウン(詞)コンビによる、クリーム最大のヒット曲(1)から聴いてみよう。

セカンド・アルバムの「英雄ユリシーズ」の循環コード進行を発展させたナンバー。

この曲ではじめてワウ・ペダルなるものの存在を知ったというリスナーも多いくらい、ワウが効果的に使われている一曲だ。

他にもフィードバックやエコー、オーバーダビング等が多用され、スタジオ録音技術がフルに生かされている。

もちろんこれは、プロデューサーであるフェリックス・パッパラルディ、レコーディング・エンジニアであるトム・ダウド(のちにオールマンズも担当)やエイドリアン・バーバーらの、高い技術力に負うところが大きい。

(2)はハウリン・ウルフのカバー。原曲とは違って、かなり粘っこい、これでもかの重たいアレンジが特徴的だ。

ブルースというより、これはもうヘヴィー・ロック。

(3)は、以前にも紹介したように、ジンジャー・ベイカーとマイク・テイラーによる、アバンギャルド・ジャズ風味のナンバー。

エスニック調コーラスで始まり、ストリート・オルガン風の音にストリングスが絡む。

途中何度もテンポ・チェンジを繰り返す、複雑な構成。未知の音世界へと誘ってくれる。

ジャズやアフリカ音楽に深く傾倒している、ベイカーならではの曲調だ。

プレイヤーとして、クリームの三人だけでなく、パッパラルディが全面的に参加しているのも、このスタジオ盤の特長。

ヴィオラ、オルガン・ペダル、トランペット、スイス・ハンド・ベルといった多様な楽器を巧みに操り、クリーム・サウンドにヴァラエティを加味している。

この曲では、オルガン・ペダルやヴィオラで参加。

続く(4)は、ブルース=ブラウン・コンビ作。ブルースがアコースティック・ギターを弾いている。

音階的にも、西洋音楽のそれではなく、どこかアラビアあたりのエスニック的なものが感じられる、実験的な作品だ。

パッパラルディのヴィオラ、ブルースのチェロが奏でる不協和音が、神秘的な雰囲気を高めている。

(5)は、パッパラルディのトランペット・ソロで始まる、これまた摩訶不思議なムードのナンバー。ベイカー=テイラー作。

寓話ふうのストーリーをクラプトン(らしき声)が語り、バックのリズムは徐々に激しくなり、最後はギターのうねるようなソロへと昇りつめていく。

(3)から(5)は、ライヴにはまず向かない、スタジオならではの面白い試みといえそうだ。

(6)は、ライヴでもおなじみの、へヴィーなビートのナンバー。ブルース=ブラウン作。

進行的にはブルースなのだが、もっと重々しく、歌詞も風刺にみちている。

ギター・ソロも、オーバーダビングによる凝った音作りになっている。

それも主音に和音を重ねていく、いわゆるツイン・リードのやり方ではなく、少しずつ違ったフレーズのソロを重ねていく、「ポリ・メロディック」(そんな言い方があるかどうかは知らないが)な方法論が面白い。

こういう試みも、ひとつ間違えると、ものスゴくダサくなりがちだが、クラプトンの巧みなプレイのおかげで、ギリギリ免れている。

次の(7)も、ベイカーがグロッケンシュピールなる打楽器、パッパラルディがハンド・ベルを演奏している、毛色のかわったナンバー。ベイカー=テイラー作。

地の演奏はアップテンポのハード・ロックなのだが、コーラスも加わって、なんとも奇妙な味わいのポップスに仕上がっている。

一般にクリーム=ハード・ロック・バンドと把握されがちだが、このアルバムを聴くと、そんな一筋縄ではいかないことがよくわかる。その音楽性は実に多岐にわたっているのある。

(8)は、ブルース・ファンにとってはなじみの深いファンキー・ブルース。もちろん、アルバート・キングのカバー。ウィリアム・ベル=ブッカー・T・ジョーンズ作。

クラプトンのギター・プレイも、かなりオリジナル寄りの、ファンキー色の強いものになっている。

アルバートが彼らにとっても、かなりインスピレーションをもたらした存在であったことが判る。

(9)は、アコギも加えた演奏。タイトなビートに乗せて、ストリングスとクラプトンのギターが自在に躍る、進歩的なサウンド。

キング・クリムゾンあたりがやっていたことを、確実に十年近く早く試みていたのである。

クリーム、そういう意味でも、相当「プログレ」なバンドだったのである。

スタジオ盤ラストの(10)はオリジナル・アルバムにはない、ボーナス・トラック(EP)。映画「サべージ・セブン」の主題曲。アコギやコンガ等を使った、アコースティック・ナンバー。ストリングスも効果的に使われている。

このように全編、ブルース、ファンク、プログレ、エスニック等々、スタジオ録音で可能な実験をあれこれ試している。

でも決してひとりよがりに陥らず、ちゃんと「聴かせる」アルバムにも仕上がっている。

これが、実にスゴいところなのだ。

さて、ライヴ盤のほうはといえば、これまた完成度は高い。

まず、クリームといえばこの曲!とまで言われる(11)。以前にもこの曲に対するオマージュ(賛辞)は書いてしまったので、ここではくだくだしく語らないが、68年時点における世界最高水準のロック・ライヴというだけでなく、20世紀を代表する名演奏といえそうだ。

続く(12)は、これもまたハウリン・ウルフの代表曲。ウィリー・ディクスンの作品。

なんと17分近くにおよぶ長丁場を、だれることなく、延々とインプロヴィゼーションだけでうずめつくしていく三人の力量には、舌を巻かざるをえない。

ことに、クラプトンのギブソンSGでのプレイは、「INCREDIBLE」のひとこと。

日本でも60〜70年代、陳信輝、竹田和夫ら、多くのトップ・プレイヤーが腕試しのため、この難曲に挑戦したものである。

でもやはり、当時弱冠22歳のクラプトンの腕前には、誰もかなわなかったものだが。

大体、コピーできるか云々以前に、このフレーズをすべてオリジネートしたクラプトンの才能は、ただものであろうはずがない。ふつう17分も演奏すると、ネタ切れになるぜ、ホンマに。

「神」とよばれた所以である。

(13)では、クラプトンはお休み、ベイカーのドラムスのみで、ブルースがハープを吹く。

このハープも実にいい。トーンは割りとシャープで、黒人ブルースマンのそれとは一味違った彼のプレイも、クラプトンの陰にかくれてあまり語られることはないが、グーである。

大ラスの(14)は、ファースト・アルバム所収のインスト。繊細にして豪快、ベイカーの実力をあますところなく伝える、圧巻のソロ・プレイ。もう、こたえられません。

以上、名うてのプレイヤー三人が、持てる技をすべて出しつくして演奏する、バトル・ロワイヤルのような40数分。

「すさまじい」のひと言だ。

スタジオ盤に比べると、音楽的な広がりで勝負というよりは、とにかく力技でわれわれの耳を圧倒するという感じのライヴ盤ではある。

84分、通しで聴けば、ノック・アウト間違いなし。この「音」の洪水に、あなたは耐えられるかな?


「音盤日誌『一日一枚』」2001年10月分を読む

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