音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2003年11月9日(日)

ウェスト・ロード・ブルーズバンド「BLUES POWER」(徳間ジャパン TKCA-71799)

「BLUES FILE No.1公認HP」によるディスク・データ

ウェスト・ロード・ブルーズバンドの記念すべきデビュー盤。75年リリース。

このアルバムから、日本人によるブルースが本格的に始まった、そういっても過言ではない一枚である。

<筆者の私的ベスト4>

4位「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」

本作は基本的に本場のブルース曲のカヴァーばかりで占められている。それもモダン・ブルース系の曲もあれば、戦前から歌われているクラシックなブルースもあり、ヴァラエティに富んだ選曲となっている。

この曲は後者のタイプに属する一曲といえよう。

スローテンポでまったりと、ちょっとジャズィ。原曲(ベッシー・スミス)のイメージを壊さぬよう、いささか時代がかったアレンジになっている。

このモッタリとした曲、ホンマに20代なかばの若者たちがやっとるのかいな?といぶかしくなるくらい、老成した雰囲気がある。

当時のわが国のポップス・シーンが、フォークとハード・ロックにほぼ二分されていたことを考えると、恐るべき成熟度ですな。

WRBBのバンド・サウンドというよりは、ゲストの妹尾隆一郎(hca)、佐藤博(kb)らをフィーチャーした、「大人の音」という感じであります。

3位「FIRST TIME I MET THE BLUES」

一方こちらはモダン系を代表する一曲。

バディ・ガイの初期のナンバー(作者はリトル・ブラザー・モンゴメリー)のカヴァーである。

WRBBは、塩次伸二、山岸潤史(潤二)という、タイプの異なるふたりのギタリストを擁しているが、こちらは山岸をフィーチャー。

セミアコでBBふうの正統派スクゥィーズ・ギターが得意な塩次に対し、ストラトでよりロックっぽいアグレッシヴなプレイを聴かせる山岸だが、この28年前の初レコーディングから、相当完成度の高い、ハイ・レベルな演奏をしていたのがよくわかる。

やはり、何年にも及ぶライヴ活動で鍛え上げただけのことはあるね。

山岸のトリッキーでエッジのたったプレイの素晴らしさもさることながら、永井隆=ホトケ氏のややオーヴァーなヴォーカルもなかなかいい。

気合いが十二分に入っているといいますか、彼が執拗に連発する「アウ!」というシャウトを聴くだけで、総毛立つのであります。

ゲスト・プレイヤーの加勢に頼らず、ギター・バンドとしてのサウンドに徹しているのもいい。これが彼らの本来の音という気がする。

2位「TRAMP」

いうまでもなく、ローウェル・フルスンのヒット・チューン。

いかにも、ファンク系の音がお好きなホトケ氏らしい選曲だ。小堀正、松本照夫のリズム隊がノリノリで、なんともごキゲン。

短めだが山岸のギター・ソロもカッコいいし、佐藤博のオルガンもナイス。

このファンクなサウンドに、うまく乗っているのが、ホトケ氏のヴォーカル。

前出の「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」のようなバラードっぽい曲より出来がいい。

ここで筆者個人の意見をいわせてもらうと、ホトケ氏の声質は、正統派のブルース・チューンをじっくり、しっとり歌い上げるというよりは、こういう「ノリの良さ」で勝負する曲、聴き手をアジテートするような曲を歌うのに向いているような気がする。(ご本人の思惑は、また違うだろうけどね。)

かっちりとした音程で歌うよりは、ちょっと崩し気味、ラフなスタイルで歌うほうが、よりホトケ氏らしいように思うのだが、いかがであろうか。

1位「IT'S MY OWN FAULT(TREAT ME THE WAY YOU WANNA DO)」

B・B・キングをトリビュートしたナンバー。

当然、フィーチャーされるのは、塩次伸二のギター。これが実にパーフェクトな出来。

ホント、泣きといい、タメといい、寸分の隙もないプレイである。特にブレイクからの展開は、鳥肌モノ。歌心も十分感じられて、申し分ないプレイだ。

それに比べると、ホトケ氏の歌はちょっと分が悪いかな。まだ、表現が青いといいますか、オリジナルのもつ「人生の重み」のようなものを、表現し切っているとはいえない。

24、5才の青年に、一度目の結婚に失敗し、二度目の結婚も、連日の地方公演によるすれ違い生活のため、破局に瀕しているという男の歌をうたえったって、そりゃあ無理だという気がする。

器楽の場合は、早熟の天才もそんなに珍しくはないが、歌の場合は「こころ」を表現するものだけに、若者が不自然に背伸びして歌ってみたところで、聴き手をたやすく感動させられるものではない。

やはり、等身大の自分、あるがままの自分をその歌に込めて、うたうしかないのだ。

そういう意味で、この曲はちょっと荷が勝ち過ぎですな。

もちろん、50代となり、人生経験を積んだ現在のホトケ氏ならば、この曲を十分歌いこなせるはずだ。

ぜひ、彼に再度録音していただきたいナンバーである。

WRBBのファースト・レコーディングは、いまひとつホトケ氏のヴォーカルが前面に出て来ず、他のメンバーのほぼパーフェクトなサウンドの中に埋もれてしまった感があるものの、とてもデビュー盤とは思えない完成度の高さである。

いわゆるQ盤により、いまだに多くの人、さまざまな世代のリスナーに、聴き継がれているというのも納得が行く。

ジャパニーズ・ブルースの原点。一度は聴いておきたい一枚だ。

<独断評価>★★★★

2003年11月16日(日)

ザ・ヤードバーズ「RARE CONCERTS 1965-1968」(SABAM BT 9302)

「The Eric Clapton ULTIMATE Discography」によるディスク・データ

ヤードバーズは、オリジナル・アルバム以外にも各種コンピ盤、プライベート盤が膨大に出ているアーティストであるが、これもその一枚。

でも、ただのコンピではない。ヤーディーズ・ファンでなくとも、ぜひチェックして欲しいアルバムである。

というのも、この盤の前半は、「幻のアルバム」とよばれた「Live Yardbirds Featuring Jimmy Page」の音源そのものなのだから。

71年、エピックはヤードバーズの元メンバーたちに断りなく、68年3月ニューヨークでのライヴ録音をレコード化してしまう。

当時ZEPを率いて活躍していたジミー・ペイジは、これを不当として発売差し止めの訴訟を起こし、勝訴したため、この一枚は幻のアルバムとなってしまう。

市場に出た数少ない商品は、バカ高い値段で取引きされ、それをコピーした粗悪なブート盤が長らく出回ることになる。

だが、2000年についにムーアランド・セイントなるレーベルから正規盤として復活、このベルギー盤もその流れを汲んでリリースされたものである。

よって、山野楽器のような大きなCDショップならたいてい入手可能なので、ぜひ店頭でチェックしてみて欲しい。

<筆者の私的ベスト4>

4位「WHITE SUMMER」

「リトル・ゲームス」にも収録されている、ペイジの作品。

ZEPの初期のライヴでも、彼のソロにより、必ずといっていいほど演奏された定番ナンバー。(ZEP時代には、ファースト・アルバム収録の曲「BLACK MOUNTAIN SIDE」とつなげて演奏されていた。)

メイン・ギターのテレキャスターを、いわゆるDADGADチューニングを施したダンエレクトロに持ち替えて弾くわけだが、後年のZEPによるロング・ヴァージョンにくらべると、かなりシンプルな構成だ。「リトル・ゲームス」でのアレンジをほぼそのまま踏襲しているといえる。

ブリティッシュ・トラッド、あるいはインド音楽に強く影響を受けた、そのユニークな音世界。67〜68年当時としては、最先端のサウンドだったと思う。

最近では、「ヘタ」という評価がほぼ定着(?)してしまった地味頁翁だが、その時期にこれだけ弾けるギタリストがどれだけいただろうと問いたい。

オリジネーターとは、実に辛いものだ。常に後続のものにコピーされ、それ以上のテクニックを開発されてしまう「踏み台」の宿命から逃れられないのだから。

そりゃ、後発組は、楽だわな。先人が示してくれたお手本はそのまま真似ればいいのだから。

だが、その先人がオリジナルを生み出すのにどれだけ苦労したかを、少しは想像しないといかんよね。

3位「DAZED AND CONFUSED」

発売当初は「I'M CONFUSED」とクレジットされていたナンバー。もちろん、ZEPの定番曲「DAZED AND CONFUSED(幻惑されて)」とまったく同一である。ペイジもこのときすでに、バイオリン・ボウによるプレイに挑戦している。

とはいえ、ヴォーカルがプラントでなく、レルフであるというだけで、ZEP版とは相当イメージが違う。

どうもこの曲のキーはレルフには合っていないという感じで、歌はかなり不安定。(元々、あまり歌のうまい人ではないけどね。)

歌がイマイチな分、彼は得意のハープで補ってはいるのですが。

とはいえ、この曲の最大の売りはペイジのギターであるのは間違いなく、テレキャスで弾いているとは到底思えないファットな音を聴かせてくれる。

一般にテレキャスはハード・ロックにもっとも不向きなギターだと考えられているが、チューンナップのやり方、そしてアンプとのマッチングによってはここまで迫力ある、一種鬼気迫るサウンドを出せるのである。これは発見だな。

演奏時間は6分強、後のZEPの、延々20分以上にも及ぶロング・ヴァージョンに比べるとごくごくコンパクトだが、なかなか迫力のある演奏だ。

ドラムスのジム・マッカーティも、ボンゾのような超人的テクニシャンでこそないものの、ハード・ロックのドラマーとしても十分通用するだけのパワーを持っていたことが判る。

まだ荒削りだが、気合い十分な「幻惑されて」。ZEPとはまた違った味わいで面白い。

2位「I'M A MAN」

ライヴのラストを飾る、ヤーディーズの十八番的ナンバー。ボ・ディドリーの作品。

ここでの主役はなんといっても、全編ハープを吹きまくるレルフだ。

本当に彼のハープはうまい。筆者もハープ吹きのはしくれなわけだが、彼のプレイはお手本であり、目標でもある。

それに、彼の観客を引っ張るステージングにもなかなかのものがある。ヤーディーズはどちらかといえば男受けするタイプのバンドだと思うが、そんな中で、女性ファン獲得に貢献していたのがレルフなのだ。

この曲でも彼はかなり女性客をあおって、失神寸前の熱演で、黄色い歓声を浴びている。

それにペイジのサイケデリック・ギター、さらにはバイオリン奏法によるプレイも絡み、ライヴ会場の興奮は最高潮となる。演奏時間は11分半にも及ぶ。とにかく全編、「熱い」のひとこと!

ヤーディーズの見事なショーマンシップを知るには、この一曲を聴くのが一番だという気がするね。

1位「THE TRAIN KEPT A ROLLIN'」

ヤードバーズというと、どうしてもこのナンバー抜きで語るわけにはいくまい。ハード・ロックの始祖としての彼らの、象徴的一曲。

これがまた実にイカしている。ジェフ・ベック時代とは違い、リズム・ギターなしの4人のみでの演奏だが、とてもそうとは思えないくらい、ハードかつパワフルなプレイなんである。

まさに、ZEPサウンドを予感させる出来。

ベック脱退後、ペイジはあえてメンバー補充を行わず、68年夏の解散まで四人編成で通したわけだが、自分のギター一本だけでも十分カッコよくやっていけるという自信があればこそ、そういう判断をしたのだと思う。

それまで、クリームのような少数の例外はあったものの、一般にギター・バンドにおいてはリズム・ギター(ないしはそれに代わるコード楽器)は不可欠だと考えられていたから、これはコペルニクス的転回だったといえそうだ。

第5期ヤーディーズ、そしてZEP以降、ワンギター・バンドは当たり前のことになったが、当時としてはメチャ画期的なことなのだ。

このNYライヴ、音質的にはいまひとつなのだが、ハードロックの歴史において、きわめて重要な一枚だと思う。

なにせ、70年代の覇者、レッド・ツェッペリンのあのサウンドが、68年3月の時点において、かなりの完成度で準備されていた雄弁な証拠なのだから。

いささかラフではあるが、ひたすらパッショネイトな演奏、そして観客の熱烈な声援。これぞ、ロック!であります。

(なお、後半の8曲は、「I WISH YOU WOULD」がクラプトン時代(推定)のライヴ。これはギター・ソロもなく、ほとんどレルフの歌&ハープの独演会状態。残る7曲は以前当コーナーでも取り上げた「BBC SESSIONS」からの音源なので、あえてふれません。悪しからず。)

<独断評価>★★★★

2003年11月23日(日)

INAZUMA SUPER SESSION「ABSOLUTE LIVE!!」(EPIC/SONY 328・H-132)

今週もまた、「知っとるけ〜?」的一枚。87年5月、インクスティック芝浦ファクトリーにてのライヴ録音。

いまはなき、バブル期日本の象徴のようなライヴハウスのステージに立ったのは、ジャック・ブルース、アントン・フィア、そして鈴木賢司の三人。

となると、60年代最強のロック・トリオ、クリームを連想しないわけにいかないよね。

で、ライヴはもちろん、その期待におこたえしてクリームのレパートリーをメインに、ばっちりキメてくれている。

クリームあるいは、ジャック・ブルースのファンならずとも興味津々な一枚のはず。でも残念ながら、現在CDは廃盤、再発の予定もない。

中古店ではけっこう、いい値がついていそうだね。

<筆者の私的ベスト4>

4位「SITTIN' ON TOP OF THE WORLD」

今回、いわばクリームにおける「クラプトン役」を引き受けることになったのが、現在は息の長い英国のロック・バンド、シンプリー・レッドにて活躍中の鈴木賢司だ。

64年生まれの彼ももちろん、クリーム、エリック・クラプトンを聴いて育ったひとりで、当然倉布団爺の完コピなどお手のものだろうが、そこは若くとも日本を代表するプロの意地、絶対倉爺の通りには弾いていない。

倉爺の予定調和的なプレイなんざまったく知らねえよとばかり、ジミヘンも顔負けのエキセントリックで破壊的な音を聴かせてくれる。ええねえ。

日本において、唯一、チャーを越えられるギタリスト(と筆者はふんでいる)、鈴木賢司ならではの快演だ。

で、4位はこの曲。筆者もライヴでは定番にしている、ハウリン・ウルフ、クリームの代表的ナンバー。

ここでの、KENJI JAMMERこと鈴木の、ストラトの派手なアーミングを多用したプレイは、実にカッコいい。

また、クリームのオリジナル・ヴァージョンではフィーチャーされなかった、ジャック・ブルースのハープ演奏がまたいい。

彼のハープも、前回のキース・レルフ同様、なかなか聴かせるものがある。ブルーズィで濃い演奏がたっぷり楽しめる一曲。

3位「CROSSROADS」

アンコールの一曲目で演奏したのは、これ。誰もが期待していたクリーム・ナンバーだ。

ちょうど44才を迎えたばかりというブルース、22才の鈴木、30才のフィア、ロックの各世代が揃った感のある三人の演奏は、けっこうクリーム・ヴァージョンに忠実な演奏。

鈴木も珍しく、クラプトンのフレーズをまんまコピーして聴かせてくれる。ま、これも余興といったところだろうが、これがクラプトン以上にカッコよかったりする。

80年代以降の、いささか気の抜けた倉爺のプレイに比べると、なんとも「熱い!」のである。

リハなんか一回くらいしかやっていないのだろうが、まるでパーマネント・グループのように息のぴったり合った演奏。

さすが!やね。

ブルース、鈴木のラウドなプレイに負けず劣らず、フィア(当時ゴールデン・パラミノスに所属)のドラミングもパワフル。

ジンジャー・ベイカーのジャズ系なドラムとはまた違って、後続の純粋ロック世代らしく、ストレートに叩き出すビートがこれまた熱い。

ブルースも、クラプトンへの「意地」をモロに見せつけるかのように、ヴォーカルも相当気合いが入っている。

「オレこそが、クリームのフロントだったんだぜ!」みたいな。

2位「SUNSHINE OF YOUR LOVE」

筆者の趣味で、どうしてもクリーム・ナンバー続きになってしまうが、このライヴ、他には鈴木賢司のオリジナル「GENERATION BREAKDOWN」「A.P.K.」、ウェスト・ブルース&レイングの「OUT INTO THE FIELD」、ゴールデン・パラミノスの「WORKING HARADER」も演っていて、そちらもハードなプレイがなかなか捨てがたいので、よろしく。

さて、場内最高潮!てな感じのときに、タイムリーに始まったのは、やはりこれ。クリームの大ヒットナンバーだ。

観客もコーラスで加わって、おなじみのサビを大合唱。みんなが知っている曲は、やはり強いやね。

鈴木も、タッピングやアーミングを交えたフリーフォーム・ギターで、クラプトンとはまったく違った個性を見せつける。

でも「精神」においては、66年〜68年ころの「ギター・フロンティア」としてのクラプトンを継いで、むしろ後のクラプトン以上にロックしている、そう思う。

後半のソロでも、ワウ・ペダルを駆使したプレイが、実に「ロック」なんだよなあ。

1位「SPOONFUL」

本ライヴのラストを飾る一曲。そう、かの名盤「WHEELS OF FIRE」での熱演が全世界のロック・ファンの度肝を抜いた、クリーム・ナンバーの再演だ。

こちらはクリーム版の16分45秒に比べればコンパクトだが、それでも正味10分におよぶ長尺。

例によって、ゴリゴリ、ブリブリのベースで自己主張しまくりのブルースに対して、一歩も引かず応戦するのはわれらが鈴木賢司。

ディストーションをバリバリにきかせた、これぞロックって感じのアグレッシヴな音は、聴いててまことに快感。

一方、ブルースのベース・プレイは、音もやたら歪んでいて荒っぽいし、耳ざわりな不協和音を使い過ぎだし、さほど好きではないのだが、迫力あるヴォーカルはけっこう好きだったりする。

「とにかくラウド、とにかくヘヴィー」、これが、ブルースの、そして彼に続く世代、鈴木やフィアのロックに関する「信条」なのだろうね。

そのへんは、素直に同調出来る。やっぱり、デカい音を出さなきゃ、ロックした気にはならないってもんだ。

世代を越えて、ロックを合言葉に、ひとつにまとまった三人。とにかくHOTとしかいいようがないゴキゲンな一枚。あなたは知っているかな?

<独断評価>★★★☆

2003年11月30日(日)

V. A.「A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD」(WARNER BROS. 9362-45500-2)

今年も残るところ、あとひと月ほど。時のたつのは早いのう。

で、年末とは何の関係もないのだが、たまにはトリビュートものも取り上げてみたい。

カーティス・メイフィールド。42年シカゴ生まれ、99年に57才の若さで亡くなるまで、インプレッションズ、そしてソロで独自のソウル・ワールドを生み続けた、シンガー/ギタリスト/コンポーザー。

彼の音楽は黒人・白人を問わず、多くのミュージシャンに強い影響を与え、日本でも山下達郎あたりをはじめとして、信奉者の多いミュージシャンズ・ミュージシャン。

そのわりには、あまり彼自身の音楽について語られることがないのが、残念なのだが。

このアルバムは、94年、カーティスの生前に作られた一枚。とにかく、参加ミュージシャンの豪華さでは、ピカイチ。さすが、カーティス・メイフィールド!と唸らせるものがある。

<筆者の私的ベスト4>

4位「PEOPLE GET READY」

ロッド・スチュアートのカヴァーによる、おなじみのナンバー。カーティスのソロでもインプレッションズでも録音されている。

ロッドが歌う「PEOPLE GET READY」といえば、ジェフ・ベックの「FLASH」に収録されたヴァージョンが知られているが、本盤のはそれとはまた別の録音。こちらはアンプラグド・ライヴ版である。

ロッドのハスキーな歌声が、カーティスのそれとは全く違った魅力を放つ。ストリングスを交えた、落ち着いた雰囲気のアコースティック・アレンジがいい感じだ。

盟友ロニー・ウッドのアコギ・ソロも、枯れた味わいがあってマルである。

3位「I'M SO PROUD」

これもまた、カーティスの十八番的ナンバー。ロックファンにも、BB&A、トッド・ラングレンのヴァージョンでおなじみであろう。

カヴァーするのは、何と50年代から活躍している、息の長いソウル・コーラス・グループ、アイズレー・ブラザーズ

インプレッションズをもしのぐ長寿グループの彼らが歌う「I'M SO PROUD」は、さすがの出来ばえ。

良質のシルクを思わせる、しなやかなロナルド・アイズレーの歌声、そしてまろやかなコーラス。絶品であります。

ゆったり、まったりとしたバック・サウンドも、楽曲に見事マッチしていてグー。

2位「WOMAN'S GOT SOUL」

カーティスよりはだいぶん年上のB・B・キングも本盤に参加、歌とギターを聴かせてくれる。

二人のやっている音楽の方向性は、さほど近いとはいえないが、共通するのはソウル、つまり「歌心」だな。

インプレッションズ時代からよく知られたこの曲を、BBは彼一流の歌心、力強い歌声で、見事に料理してみせてくれる。

カーティスは、従来のR&Bのように男女の色恋のみを歌のテーマとせず、常に社会的な視野に立った歌詞で音楽界をリードして来たひとだが、そういうところが社会派、BBの心をも捉えたのかも知れない。

金銀財宝にもまさるもの、それがソウル。まさに至言だ。

1位「I'M THE ONE WHO LOVES YOU」

はっきりいって、ベスト4の選に漏れたナンバーにも、出来のいいトラックは多い。グラディス・ナイトアレサ・フランクリンの歌のうまさはさすがだし、レニー・クラヴィッツナラダ・マイケル・ウォルデンの、ロック感覚を融合したヴォーカルも実にカッコいい。スティーヴィー・ウィンウッドも、もちろん文句なしの歌唱力だ。

あのエリック・クラプトンも、カーティス風のファルセット唱法に挑戦しているのが珍しい(ちょっと聴いた分には、エリック・カルメン風だったりする)。

カーティス本人やインプレッションズも登場して、ホント、豪華なラインナップだわ。

で、ベスト1を選ぶのも楽ではないのだが、やはり実力、そして貫禄でこのひとだろう。スティーヴィー・ワンダーである。

カーティスとならんで、70年代以降のソウル・ミュージックをリードして来た実力者。カーティスの8才年下にあたる。

十代より早熟の天才ぶりを発揮、すべての先輩アーティストたちをたちまち凌駕したスティーヴィーも、カーティスの先鋭的な音楽性には一目置いていたということか。

その歌いぶりは、本当に思い入れたっぷりという感じ。彼はこのナンバーを、女性へのラヴ・ソングとして歌うだけでなく、カーティス・メイフィールドに対する賛歌としても歌っているように感じられる。

全体に見ると、やはり、黒人アーティスト勢のほうが、カーティスの音楽への理解、愛情においてひと回り上のものがあるのは否めないが、白人アーティストもなかなかがんばっている(特にウィンウッドとフィル・コリンズ)。

「ソウル」を進化させた男、カーティス・メイフィールドの生み出したさまざまな音楽世界を知ることが出来る一枚。

今のミュージック・シーンが、いかに彼に多くを負うているかが、本盤を聴くとよくわかることだろう。

<独断評価>★★★★


「音盤日誌『一日一枚』」2003年10月分を読む

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