音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2004年11月7日(日)

BEAT CLUB ALL STARS「BEAT CLUB ALL STARS」(Yotsuba Records BCS-OM001)

栃木県宇都宮市にある、ライブハウスを兼ねたスタジオ、「BEAT CLUB STUDIO」。そこに集うミュージシャンたちの集団「BEAT CLUB ALL STARS」がリリースしたオムニバス・アルバム。インディーズレーベル「Yotsuba Records」より本年リリース。

実はこの一枚、当サイトでもおなじみのhisaeさんからありがたくも頂戴したのだが、一度聴いてみて、そのクォリティの高さにビックリしてしまった。

もう、この中からすぐにメジャー・シーンに躍り出てもおかしくないレベルのアーティストが何組もいるのだよ。

いずれのアーティストも、基本的にはアコースティックギターをフィーチャーしたサウンドなのだが、フォーク、ボサノバ、フュージョン、ブルースなど極めてバラエティに富んでいてあきさせない。

ショート・ジングル「BEAT CLUB STUDIO」で登場するのはトリオ編成のJamsbee

2曲目の「Cafe Deja Vu」は英語詞による、フォーキーなバラード。

リードヴォーカル・上原誠のせつない歌声、廉慎介のハモりが、いい雰囲気を出してる。ギター2本、べースによるアンサンブルも綺麗にまとまっている。

どこか往年のグループ、BREADを想起させる音。筆者のふだん聴いている音楽とはまるきり方向性が違うが、その高い音楽性には素直に賞賛の辞を寄せたい。

続くはソロシンガー・屋代篤司による「エッセンス」。

ふだんはアコギでの弾き語りスタイルのようだが、本盤ではドラムスも加えたメリハリある演奏をバックに、ハイトーンでのヴォーカルを聴かせる。

本人の多重録音によるハーモニーも、なかなか素晴らしい。

2曲目の「熱風」は、ファンク風味のナンバー。ハードにドライヴするアコギ・サウンドを聴かせる。

この曲も、屋代の張りのある硬質な歌声がなんともいい。

ただ、比較的複雑なコード進行にもかかわらず、アレンジがコードカッティング一辺倒なので、いささか違和感がある。編曲にもうひとつ工夫があればさらに良し。

次に登場するのは、ギター、あるいはピアノで弾き語りというスタイルの小川健。曲は「リーフ」と「君に届けたいフレーズ」。かな〜り甘口の声なので、筆者的にはちと苦手(笑)。

でも、声質といい、純愛路線の歌詞といい、ポップな曲調といい、いかにも女性にはウケそうだな。守備範囲外なので(笑)、コメントはこのへんで勘弁。

四番手はCliche ♭5(クリシェ・フラット・ファイブ)という、女性シンガーnaomi.kをフィーチャーした2人組のユニット。

サウンド指向の強い、いかにも都会的で洗練された音を聴かせる。お洒落系といいますか。

ヴォーカルが中島美嘉風、ボサノバ調の「影」はことにカッコいい。でもバラードナンバー、「星を数えてる」はちょっとありきたりな曲調かな。何となく今井美樹みたいだし。

筆者的には、彼らに正統派バラード路線よりは、カッとんだお洒落系を歩んで行ってほしいと思うとります。

さて、お次に登場するのはひでぼうず。もちろん、当サイトでもおなじみの、ひであきさんとBoseさん、あのお二人である。

本盤ではべースを加えた編成で、ハードでファンキーな演奏を聴かせてくれる。

インストゥルメンタル・ナンバー、「コブラツイスト(Thousand earthworms feel so good)」は、インプロヴィゼーション炸裂、いかにもフュージョンな一曲。

副題からわかるように、かなりエロティックな含みをもった曲で、なんと、あのhisaeさんやみぎねじさんの色っぽいヴォイスも聴けます。要チェキ!ですぞ。

もう一曲は「Breath」。こちらはヴァイオリンを加え、リラックスした雰囲気のバラード。ヴァイオリンに合わせた歌が聴けますが、このヴォーカルはみぎねじさん。

アコースティック・ギターの美しい響きを最大限に生かした演奏。テクニックには定評のあるこのデュオ、さすがに安心して聴けますな。

続くはえだ たかし。彼もふだんはギターで弾き語りというスタイルのひと。

一曲目の「One Night Blues」は、彼がソロと並行してやっているユニット「みじぇっと」の相方、いしかわ☆さちよとデュエットしたアコギ・ブルース。

この、いしかわ嬢の声が、筆者的にはツボにハマってしまった。ちょっぴりハスキーな泣き節。一度聴いたら忘れられない。

彼女のCDだったら、絶対買って聴くんじゃないかな。ライブでもぜひ一度観てみたい人です。

えだ たかしでもう一曲。こちらはバンド編成での「Fly High!」。清涼感のあるアップテンポのナンバー。

ハイトーンでの歌唱にちょっと不安定なところがあるので、そんへんが彼の今後の課題かな。

そして、超個性派シンガー登場。Mint. 1/2(ミントにぶんのいち)である。アコギとカズーでカントリー調の「電車にゆられて」のようなトッポい曲を歌ったかと思えば、竪琴を達者に弾きながらメロディアスなバラード「感謝のテーマ」をキメたりもする。

ステージでのパフォーマンス、MCも抜群に面白いそうで、ローカルでは既に有名人的存在。

そのうち、メジャーシーンでいつのまにやら活躍してた、なんてなことになりそうな人だね。

最後はふたたびJamsbeeがスタジオライブで登場。歌うは「餃子ブルース」。

この曲はNESTの公開セッション、寿家さんのオフ会でも、ひであきさんらが披露していたので、すでにご存じのかたも多いだろう。

オリジナルはこのJamsbee。とはいえ、もうこの「BEAT CLUB STUDIO」に集う人々にとっては共有財産みたいな愛唱歌になっている。

実際、このテイクでも、オーディエンスとの大合唱になり、盛り上がりまくる。

歌詞は毎回アドリブでいろいろと変わるそうで、そのへんがいかにもブルースっぽくていい。

Jamsbeeの、フォーク路線とはまた違った別の、ブルーズィでファンキーな魅力があふれた一曲である。

以上、さまざまなスタイルのオリジナル・ナンバーがテンコ盛り、約60分、フルに楽しめるので、興味をお持ちになった方は、ぜひ、上記のサイトにアクセスして欲しい。

筆者的には「ひでぼうず」と「えだ たかし&いしかわ☆さちよ」が今もパワープレイ中。ナイスな音盤、本当にありがとうございます、hisaeさん!

<独断評価>★★★★

2004年11月14日(日)

メル・トーメ「ニューヨークの休日」(ワーナーパイオニア SD 8091)

日曜日の朝に聴くのにうってつけの一枚。ベテラン・ジャズシンガー、メル・トーメのアルバム、63年リリース。

トーメは、同年公開の米映画「SUNDAY IN NEWYORK(邦題・ニューヨークの休日)」の主題歌を歌ったのだが、それがきっかけでこの一枚が生まれた。ニューヨークにまつわる曲ばかり、13曲を集めて歌ったのである。

これがまた名曲&名唱ぞろい。名盤の多いトーメのレコードの中でも、出色の出来だと思う。

トップはもちろん、「ニューヨークの休日」の主題歌。ピーター・ネロ作曲。

いかにも休日っぽい、リラックスした雰囲気で歌われる、ミディアム・テンポのスウィンギーなナンバー。

トーメのなめらかなヴェルヴェット・ボイスは、本盤でも、もちろん絶好調である。

続く「ニューヨークの秋」はミュージカル作曲家、ヴァーノン・デューク34年作のバラード。

しっとりとしたメロディ、そして大都会NYCの美しい風景をリリカルに描写した歌詞。

文句なしの名曲だといえるだろう。

「バードランドの子守歌」はジャズ・ピアニスト、ジョージ・シアリングの代表作。

もちろん、有名なNYCのジャズ・クラブ「バードランド」にちなんだバラード。

トーメはかつて56年にもこの曲を録音しているので、再演ということになる。

この曲のアレンジがまた素晴らしい。名バンド・リーダー、ショーティ・ロジャーズによるものだが、ピアノ、フルート、ヴァイブのユニゾンによる絡みが何とも耳に心地よいのだ。

むろん、トーメの広い声域、ゆたかな表現力を生かした歌唱も◎だ。

「ブロードウェイ」はスウィング・ジャズの定番ナンバー。カウント・ベイシー、レスター・ヤング、スタン・ゲッツらの演奏でおなじみである。

トーメはこの曲を、持ち前の抜群のリズム感で歌いこなしている。

「ブルックリン・ブリッジ」は、フランク・シナトラ主演の映画「下町天国」(47年)の主題歌。

ニューヨークの下町、ブルックリンのムードがぷんぷんとする、いなせな歌唱を楽しむべし。

A面最後の「レット・ミー・オフ・アップタウン」はジーン・クルーパ楽団でヒットしたスウィンギーなナンバー。

間奏部の、トーメのスキャットとバンドの掛け合いが実にカッコいい。必聴なり。

一転、ぐっと落ち着いたムードで始まるブルーズィな曲は「42番街」。

おなじみ、劇場の多いNYC42丁目(東京でいえば日比谷あたりか?)の雰囲気を濃厚にかもし出している。

バックのストリングスのやるせない調べが、何ともいえずいい。

「ニューヨークの舗道」は、なんと1894年に作られたという、アルバム中最も古いナンバー。

しかもNYCの市歌にもなっているという、NYソングの最右翼的存在。

この何ともオールド・ファッションなメロディを、モダンな感覚で自分流に料理してさらりと歌い上げてしまうトーメ。

さすが、歌手の中の歌手だけあります。

「ハーレム・ノクターン」はサム・テイラーによる演奏でおなじみだが、元をたどれば戦前のジャズ・ナンバー。

ハーレムの独特のたたずまいを音だけで表現した佳曲を、白人のトーメがブルーズィに歌う。これまた一興である。

「ニューヨーク・ニューヨーク」はシナトラによる同名異曲があるので勘違いしやすいが、古いほうの「ニューヨーク・ニューヨーク」。映画「踊る大紐育」(49年)の主題歌である。

軽快にスウィングしまくるトーメ。聴いてくるこちらも、実に気持ちいい。

「嘆きのブロードウェイ」は1910年代の曲。ミディアム・スローのバラード。

この曲もショーティ・ロジャーズの、ピアノ&ヴァイブの響きを生かしたアレンジがまことに秀逸。

古いナンバーも、アレンジ次第では見事に甦る好例だといえよう。

「マンハッタン」は、ジャズ史上屈指のソングライティング・チーム、ロジャーズ&ハートの代表曲。

あまたあるニューヨークをテーマにした歌曲の中でも、トップクラスの出来といえよう。

以前このコーナーで取り上げたブロッサム・ディアリーの、まったりとした歌唱も筆者は気に入っているが、トーメの歯切れのいい歌いぶりも捨て難い。

イントロから繰りひろげられる、ストリングス+コンボのちょっと凝ったアレンジ(ディック・ハザードによる)も、聴きもののひとつだ。

ラスト・ナンバーは「マイ・タイム・オブ・デイ」というタイトルのバラード。これもNYCを舞台にしたミュージカル映画のナンバーだそうだ。

一巻のしめくくりにふさわしい、しっとりとした歌唱。お見事!の一言である。

最高の楽曲、最高の歌唱、そして最高のアレンジ。何とも贅沢な音のフルコース。何度味わっても厭きない一枚とは、こういうのをいうのだろう。絶対のおすすめです。

<独断評価>★★★★★

2004年11月28日(日)

デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」(東芝EMI EYS-81580)

デヴィッド・ボウイ、83年のアルバム。ボウイとナイル・ロジャーズの共同プロデュース。

67年、デラム・レコードからデビューして以来、第一線を走り続けているボウイだが、ひとつのスタイルにとどまらず常に変容を続けているのが彼の特徴だと思う。

もし彼のサウンドが、初期のグラム・ロック・スタイルのままだったら、70年代の後半には消えてしまっていたに違いない。

幅の広いサウンド・メイキングにより、不死鳥のように何度も甦って来た男、それがデヴィッド・ボウイだと思う。

そんな中でも、中期(80年代)を代表するアルバムだと思うのが、これ。

当時飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサー、ナイル・ロジャーズを迎え、ロック、ファンク、ポップといったジャンルに縛られない闊達な音を生み出すことに成功している。

聴きどころといえば、まずはスマッシュ・ヒットともなったアルバム・タイトル・チューン、「レッツ・ダンス」だろう。

これがまた、当時最高潮に盛り上がっていたディスコ・シーンを敏感に察知した、ひたすらダンサブルな音。

それも、かなり生音重視のアレンジだ。シンセサイザーをあえて使わず、生のブラス・セクション、あるいはビートルズばりの強力なコーラスを前面に押し出している。

プロデューサーのナイル・ロジャーズはこのアルバムの音を「モダン・ビッグバンド・ロック」と呼んでいたそうだが、ナットクのネーミングだと思う。

シンセなしでは夜も日も明けぬニューウェーブ系の音作りとは一線を画していて、アメリカ市場にもすんなり受け入れられそうな、王道路線。

デヴィッド・ボウイというミュージシャン、ただのすかした伊達男ではない。非常にビジネス・センスもあることがこれでよくわかる。

そう、「売れてナンボ」がこの世界。常にヴィジュアル面ではトリッキーな戦術で世間の注目を集める一方、音のほうでは基本を絶対外さない手堅い作り方をする。これ最強。

刺激的なギター・カッティングとパワフルなドラムスの連打で始まり、ボウイのサックス・ソロがフィーチャーされる「モダン・ラヴ」、オリエンタル趣味を露骨に打ち出した、畏友イギー・ポップとの共作の再演「チャイナ・ガール」、ファルセット・ヴォイスが特徴的なビート・ナンバー「ウィズアウト・ユー」と、A面の他の曲も粒揃い。ことにオマー・ハキム、トニー・トンプソンのダブル・ドラマーが叩き出すビートは強力無比のひとこと。

B面もまったくハズレ曲なし。

重厚なビートに乗せたアンニュイなボウイ節が全開なのは「リコシェ」。英国のグループ、メトロのピーター・ゴッドウィン、ダンカン・ブラウンの作品をカバーした「クリミナル・ワールド」は、対照的にファルセット中心の軽い歌いぶり。ボウイとドイツ人プロデューサー、ジョルジオ・モロダーとの共作「キャット・ピープル」では、へヴィーなリズムとボウイの激しいシャウトがなんとも印象的。ラストの「シェイク・イット」はこの一枚では珍しくシンセ中心のアレンジで、妙にポップな感じのナンバー。ま、これもボウイらしさのひとつの表れだが。

一曲を除けば全体に重心が低めというか、地に足がついた音作りなので、20年以上たった現在聴いてもまったく違和感がないのがスゴい。

いわゆるお洒落系、流行りもの系の音って、ふつうは後で聴くと、ものすごく恥ずかしく思えるものが多いんだけどね。

このアルバムを発表した83年、ボウイは大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」にも出演。その特異なる演技で世間を大いに唸らせている。まさに中期ボウイの当たり年。

この2年後には、ミック・ジャガーと共演、「ダンシング・イン・ザ・ストリート」を歌うなど、ホント、ノリに乗っていた感がある。

ボウイって、いわゆる「上手い」シンガーではないんだけど、容姿とかも含めてワン・アンド・オンリーな個性の持ち主だと思う。常に世間の期待以上のものを見せてくれるということでは、稀有なポップ・スターだな。

観ている者を釘づけにする「魅力(チャーム)」を持っているということでは、たぶん、ポップス史上ベスト5に入るような気がする。筆者にとってみれば、自分は逆立ちしても絶対なれないタイプのミュージシャン。実は密かに憧れとります(笑)。

<独断評価>★★★★


「音盤日誌『一日一枚』」2004年10月分を読む

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