音盤日誌『一日一枚』


ノン・ジャンル、新旧東西問わず、その日聴いたレコード・CDについての感想文です。

2006年9月3日(日)

ブラインド・ブレイク「キング・オブ・ザ・ブルース エントリー2」(P-VINE PCD-2253)

ブラインド・ブレイクの、26年から32年までのレコーディングから20曲をセレクトした編集盤。91年リリース。

ブラインド・ブレイク、1895年フロリダ州ジャクスンヴィル生まれ、1937年に亡くなっている。この夭折のギタリスト/シンガーは、さほど知名度はないものの、実はブルース史において、非常に重要な人物だ。

なんといっても、かのブルース・ボス、ビッグ・ビル・ブルーンジーが彼のギター奏法に強く影響を受けており、ブルーンジーを通して、その後のさまざまなミュージシャンに影響を及ぼした、そういう「ミュージシャンズ・ミュージシャン」なのである。

まずは、一曲聴いてみよう。トップの「ブラインド・アーサーズ・ブレイクダウン」はラグタイム・スタイルのインスト・ソロ。見事なリズム感、 華麗にして確かな指づかい、もうこの一曲だけで彼がただ者でないことがわかる。

ニ曲目の「ポリス・ドッグ・ブルース」は、ライ・クーダー、アーニー・ホーキンスなど他のミュージシャンによってカバーされることも多い、ブレイクの代表曲的存在。

軽快なギター演奏にのって、歌声も披露してくれるわけだが、この歌がギターとは対照的にヘタウマ系というか、素朴のひとこと。

力まず、まるで鼻歌を歌うかのようにボソッと自然に歌う。これがなんともいい味わいなのだ。

三曲目は再びインストの「ウェスト・コースト・ブルース」。語りを入れながら、リズミカルに演奏される。ラグタイム・ギターに挑戦してみたい人には、格好の教材になりそうな、コンパクトにまとまった佳曲である。四曲目の「ドライ・ボーン・シャッフル」は、かなり難度の高い、アップテンポのインスト。

そんな感じで、インスト曲、歌もの、ミドルテンポ、アップテンポと各種織り交ぜた構成。でもどれも、ハッピーな雰囲気の曲だ。

ブルーンジーについてもいえることだが、基本は非常にネアカな音楽で、高度の技術に裏打ちされていながら、そのいなたい歌声のおかげで、聴き手をほのぼのとした気分にしてくれる。

「スキードゥル・ルー・ドゥー・ブルース」では技術的に結構むずかしいスキャットをやったり、ハープを吹いたり、他のシンガー(バーサ・ヘンダースン)のバックで達者なピアノを弾いたりと、多才ぶりを見せている。ギター、ピアノの二刀使いとは、それだけでも凄くないですか?

演奏家としても、コンポーザーとしても、高い才能を持ち、でもひたすらシンプルでわかりやすい音楽をやる、これがブレイクの身上といえよう。

ロバート・ジョンスンのような、狂気と隣り合わせな才能とはまた違った意味で、ブレイクも天才なのである。

残念ながら、彼の音楽を知る人は、決して多くない。が、彼の生み出した、リズミックなギター・スタイルは、ロック、ブルースなどの「グルーヴ」のある音楽を演奏するギタリストならば、間違いなく受け継いでいる、そういう類いのものだ。

「リズムこそがギター・プレイの命」、彼のプレイはそう語っているように見える。

もっとギターがうまくなりたい、そう思っているすべての人々に聴いて欲しい一枚であります。

<独断評価>★★★★

2006年9月10日(日)

エリック・クラプトン「安息の地を求めて」(POLYDOR 531 822-2)

AMGによるディスク・データ

エリック・クラプトン、75年のアルバム。キングストンおよびマイアミにて録音。トム・ダウドによるプロデュース。

ソロ名義のオリジナル・アルバムとしては3作目にあたる本盤(「461オーシャン・ブールヴァード」と「ノー・リーズン・トゥ・クライ」の間に位置する)、世間の評価はさほど高くはないが、非常によく出来たアルバムだと思う。

サウンド的には前作「461〜」を基本的に踏襲した、レイドバック・スタイル。レゲエ、ブルース、R&B、そしてゴスペルといった音楽を、ジャムセッション的な雰囲気の中でリラックスしながら演奏している、そういう一枚だ。

トップはゴスペル・ナンバーをカントリー・ブルース風味で料理した「ジーザス・カミング・スーン」。ECのドブロ・ギターがなんともシブい味わいを加えている。ジョージ・テリーのアコギもいい感じだ。

続く「揺れるチャリオット」も有名なゴスペル曲。レゲエ・アレンジに意表をつかれるが、これが意外といけるんだな。イヴォンヌ・エリマン、マーシー・レヴィ。ふたりの女声コーラスも、やや地味めなECの声を、うまくバックアップしていてグー。

「小さなレイチェル」は、ロッキン・ジミーことジム・バイフィールドの作品。R&B風味のこのナンバーを、ECはリラックスして歌っている。バック演奏がやや単調に流れ過ぎて、盛り上がりに欠ける感じはあるが、それもまたセッションっぽくていいんでないの。

レゲエ・スタイルの「ドント・ブレイム・ミー」は「アイ・ショット・ザ・シェリフ」のアンサーソング。ECとテリーの共作。ECの歌も味わい深く、すっかりこの手のサウンドが、板についた印象がある。

アナログ盤A面ラストの「ザ・スカイ・イズ・クライング」は、エルモア・ジェイムズの作品のカバー。

エルモアの声をめいっぱい張り上げたボーカル・スタイルとは対極の、ECのボソボソッとした歌いぶりも、これはこれで悪くない。次第に感情を高めていくさまがいい。また、スローなアレンジにのせての、スライド・プレイにも注目。ワウを加えたその演奏は、スリリングのひと言だ。

ECは以後も「イット・ハーツ・ミー・トゥー」を取り上げるなど、エルモアへのリスペクトを明らかにしている。激情のブルースマン・エルモアは、ECにとってロバート・ジョンスンなどと並んで、永遠の憧憬の対象なのだろう。

「ブルースを唄って」は、レオン・ラッセル夫人としても知られるメアリー・マックリアリーの作品。「アフター・ミッドナイト」を思わせるノリのいいR&Bナンバーで、バック・コーラスが実に効果的。ふたりの女性抜きでは、このアルバム、実にしまりのないサウンドになっていたであろうね。

「ベター・メイク・イット・スルー・トゥデイ」は、ECの作品。ディック・シムズによるオルガンの響きが印象的な、内省的なムードのスロー・バラード。

ナチュラルで美しいメロディは、ECのコンポーザーとしての高い実力を、いまさらながら認識させてくれる。

ラテン・ミュージックなノリから一転、ビートルズ・ライクな美しいハーモニー・サウンドとなる「可愛いブルー・アイズ」は、これまたECの音楽的な幅の広さを感じさせるオリジナル。

ECのガットギター・ソロもいい。のちのアンプラグドな音世界は、ここに原点があるといっていいだろう。

「心の平静」も、メロディの美しさがキラリと光る、オリジナル曲。そのアレンジは「アビー・ロード」から「オール・シングス・マスト・パス」に至るあたりのサウンドをほうふつとさせる。

ECの非ブルース的な側面を代表する一曲といえよう。

ラストも、自作バラードの「オポジット」。どこか「レイラ」を思い出させるメロディ、繊細なアレンジ。申し分のない、極上のラブ・バラードであります。こんな曲、隣りでギターを弾いて歌われた日にゃ、どんな女性だってオチてしまうでありましょう。にくいね、コンニャロ! そんな感じであります。

オトコのファン向けには、ブルースやR&B路線、オンナのファン向けにはポップなラブ・バラード&レゲエ路線。幅広い音楽性でリスナーをがっちりつかまえる彼は、やはりホンマモンの世界的スターである。

常に最高レベルの楽曲を世界中のファンから求められるプレッシャー、これは大変なものがあるだろうが、それさえも見事に作品に昇華してしまう才能。EC、あんたはやっぱりスゴいお人ですわ。脱帽。

<独断評価>★★★★☆

2006年9月17日(日)

オスカー・ピータースン「my favorite instrument」(MPS 821843-2)

AMGによるディスク・データ

オスカー・ピータースン、68年のアルバム。ドイツ・フィリンゲンにて録音。

酒席において「世界一のピアニストは誰か?」という話題で、ひとしきり盛り上がるときがある。

もちろん、それは個々人の主観によるもので、誰が世界一なんて到底決めようもないのだが、いってみれば自分が最高だと思うアーティスト名を上げることで、その人の音楽観を表明しているわけですな。

で、各人が、俺はアート・テイタムだ、いや僕はバド・パウエルだ、いやハービー・ハンコックだ、ビル・エヴァンスだと侃々諤々の騒ぎとなり、結論など出ない。それでいいのだ。

筆者の場合、前掲の人たちも、もちろん大好きなのだが、たったひとり、世界一のピアニストを上げるとなれば、このオスカー・ピータースンにとどめをさすのではないかと思う。

筆者がピータースンの生演奏にふれたのは、ただ一度、十なん年か前のブルーノート東京においてであるが、そのライブにて、彼が世界一であることを確信した。

そのタッチの鮮やかさ、確かさ、寸分の狂いもないリズム感、表現の多彩さ、あふれんばかりのサービス精神(なかにはその"饒舌"を余り好まない聴き手もいるにはいるが)といった諸々の点において、世界の頂点に立っているのは、間違いないと思う。

そんな彼の、ピアノ一台だけでレコーディングしたアルバムの第一弾がこれ。

ピアニストにとって、腕の見せ場であるソロ。裏を返せば、実力のほどが全て露呈してしまう、怖〜い場でもあるのだが、全曲、ピータースンは危なげなく最上級の演奏を聴かせてくれている。

スタートはガーシュウィン兄弟の「やさしき伴侶」から。聴き手はのっけから、ふんだんにちりばめられた、派手な装飾音に圧倒される。

リズミカルな「パーディド」。その左手の動きの鮮やかさは、名手アート・テイタムと並ぶぐらい、見事である。

バラード・ナンバー「ボディ・アンド・ソウル」も、この曲のメロディ・ラインの美しさを100%引き出し、なおかつ深いニュアンスを感じさせる演奏。

極力饒舌な表現を抑えた「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」の、ひたすら静謐な世界も素晴らしい。

バラードの「バイ・バイ・ブラックバード」「アイ・シュッド・ケア」、スウィンギーな「ルルズ・バック・イン・タウン」と、ジャズ・ファンにはおなじみのナンバーが続く。いずれも、メリハリの効いた構成といい、躍動感、情感にあふれた豊かな表現といい、まったく非の打ちどころがない。

ロジャーズ&ハートによる愛らしいバラード、「リトル・ガール・ブルー」。その表現は繊細にして透明。ピータースンの極上のリリシズムを、この一曲で感じてほしい。

ラストは、これぞピータースン!という極めつけの一曲、デューク・エリントンの「A列車で行こう」。「灯りが見えた」のメロディも巧みに引用しつつ、軽快にスウィングするご機嫌なナンバー。

以上、全編文句なしに100点満点な一枚であります。ジャズ・ファンならずとも、聴いて損は絶対ないと確信しとります。

<独断評価>★★★★★

2006年9月24日(日)

ロニー・ウッド&ボ・ディドリー「LIVE AT THE RITZ」(VICTORY MUSIC 383 480 006-2)

AMGによるディスク・データ

ロニー・ウッドとボ・ディドリーの共演ライブ盤。87年11月、ニューヨーク・リッツにて収録、88年リリース。ロニー・ウッド、マーティン・アダムの共同プロデュース。

28年生まれ、当時59才目前のボ、47年生まれ、40才のウッド。師弟でもあり、親子でもあるような関係のふたりの、息の合ったライブ・パフォーマンスがぎっしりつまった、極上のロックンロール・ショーだ。

ボの代表的ナンバー「ROAD RUNNER」でステージはスタート。ふたりをサポートするミュージシャンは、ジム・サッテン、デビー・ヘイスティングス、マイク・フィンク、ハル・ゴールドスタインら、実力派ぞろい。

前半は、ボのヒット・パレードのおもむき。「I'M A MAN」「CRACKIN' UP」「HEY BO DIDDLEY」と、おなじみのナンバーを立て続けに聴かせてくれる。

バックのサウンドは、ロックンロール・リバイバル的な軽い感じではなく、けっこうへヴィーでタイト。87年の、現在進行形のロック・ビートなので、当時のAORあたりに比べても、聴き劣るということはない。これはやはり、仕掛人・ウッドの手柄といえますな。

「HEY BO DIDDLEY」ではゲストに、ホール&オーツのライブにも登場していた元テンプス組、エディ・ケンドリック、デイヴィッド・ラフィンが参加しているのが、目を引く。

5曲目からは、ロニー・ウッド中心のナンバーに。ちょっと驚いたのは、第一期ジェフ・ベック・グループのナンバー、「PLYNTH/WATER DOWN THE DRAIN」 からスタートしたこと。

本盤での当曲は、ウッドのへヴィー&ハードなスライド・ギター・ソロがたっぷり楽しめるアレンジとなっている。

続く「OOH LA LA SONG」は、フェイシズ時代の作品。ウッドとロニー・レインの共作。

ここでの、ラフながらも哀愁をたたえたウッドの歌声が、なかなかいい。

彼はボーカリストとしては、うんと素質に恵まれている人ではないのだが、「歌いたい」という気持ちが常にあって、前向きに歌に取り組んでいる印象に好感が持てる。

ギタリストの多くは「おれはギターが弾けるから、歌のほうは別にいい んだよ」みたいな感じで歌うことを降りてしまいがちだが、ウッドは拙いなりに、真剣に歌っている。その真摯さが、聴き手のハートを打つのだよ。

ウッドのオリジナルで、もう一曲。「THEY DON'T MAKE OUTLAWS LIKE THEY USED TO DO」を。

このラフで軽快なロックンロールを、ボとウッドが揃って熱唱すると、会場は大興奮状態。シンプル、ストレート、そしてパワフル。これぞ彼らの音楽の醍醐味であります。

とどめの一発。聴きおぼえのあるイントロは、そう、「HONKY TONK WOMEN」。ふだんはミック・ジャガーの歌でしか聴けないこの曲の、珍しくもロニー・ウッド・ヴァージョンであります。この大サービスに、聴衆も大喜び。

ボーカルはボに戻り、このライブのために用意したらしいオリジナルのスロー・ブルース、「MONEY TO RONNIE」を。ボは、彼としてはちょっと異例の、ディープなブルース・ボーカルを披露してくれる。

で、ここでの、ウッドのブルーズィなスライド・プレイは、実に聴かせます。艶っぽいトーン、和音使いのうまさ。彼のスライド・プレイヤーとしての実力は、かなりのものだということが、これを聴けばわかるはず。

白人ロッカーでは、D・オールマン、L・ジョージあたりのプレイばかりクローズアップされがちですが、ウッドのこと、もっと評価してもいいんじゃないでしょうか。

それはさておき、ラストはボの十八番「WHO DO YOU LOVE」で締めくくり。この曲では、ボはなんとドラムを叩きながら、歌いまくります。

「HEY BO DIDDLEY」でも出てきたゲスト・コ−ラス、テンプスや女声ボーカリストたちも加わっての総力戦。そのビートの強力なことといったら、圧巻のひとこと。

ボのワイルドで野太い個性、ウッドの粋でいなせな個性、このふたつが見事溶け合って、この上なくいかしたロックンロールを生み出した、コラボレーション・ライブ。

ロックンロールの本質は、力(パワー)なり、と、改めて思い知らされた一枚であります。聴かねば損損!

<独断評価>★★★★☆


「音盤日誌『一日一枚』」2006年8月分を読む

HOME